物心ついた時にはもう、一人ぼっちだったように思う。

 自分を産み落とした人は冷たかったけれど、世界は案外冷たくはなかったから、ひとときの間、袖を触れ合うように仲良くしてくれた人間はいた。それは同じように産み落とした人が冷たかった子どもだったり、会うたび情報交換をするような旅人だったり。
 彼らの優しさは真実だ。何らかのメリットを期待した結果だとして、根底の思いやりは否定できまい。けれど彼らは多少の縁だ。束の間の交流を小粋に楽しんだ後はさようなら、深入りしないのもまた優しさである。
 例えへっぽこだのバカだの見知った人間に散々な評価をされていたとしても、そのくらいの理解はしていたつもりだった。
 
いいや。へっぽこだのなんだの散々言われていたからこそ、自分がベタベタされるに値しない人間だという認識が、彼──アルジェンにはあったのだろう。彼は頭のどこかで自分がへっぽこなことを認めていた。しょっちゅうドジるし大して強くもなければ、お得意の探検は成果が出ないこともザラだ。
 だから、 
「カッコいい!!」
 その言葉は革命だった。たまたま助けたネコミミ少年の称賛は脳天に響き渡って彼の自尊心と承認欲求を満たした。
 
「アルジェンあにきと呼ばせてください、あにき!」

 一人ぼっちだった青年に、追加の言葉はケーキのように甘い。ケーキな言葉をかじった瞬間、一人ぼっちの青年は兄貴になったのだ。
 
 兄弟なんてものがいた覚えはないけれど、兄と慕うネコの子アオイとの交流はすんなり行った。

 成果が振るわなくても旅をした経験は蓄積される。
 だから、旅人として日の浅いアオイの前では立派に兄貴が出来た。 
 いつも空振りばかりの探索が実を結んだ。
 ネコの子と過ごす日々は楽しい。
 ネコの子と開ける宝箱の中にはいつも、金ピカな成果が入っている。
 青年は一人ぼっちだったから、これからも自分は一人ぼっちなのだと思っていた。青年は自分の価値の低さを知っていたから、人に優しくされても深入りをしなかった。
 青年は善人であったから、泣いていた子ネコを助けた。

 青年はその実寂しがり屋だったから、子ネコといて楽しかった。
 四つの思考と言葉が合わさった先に見つけた、アオイと一緒にいたい気持ち。気持ちの更に向こうの感情に、へっぽこな青年はまだ気づいていない。


「あーにき! おはようございます! 今日はどこに行くんスか?」
「そうだなー……今日は西の砂漠で新しい遺跡が見つかったらしいから、そこに向かう! 水の確保はしっかりしておくのだ、アオイ!」

 だからこの物語は、まだ未完成なのである。



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こんなん書いたからには完結させてやりたい。でも気力が尽きている&話がうまくまとまってくれない。