※「へっぽこアルジェンと宝」後の話



 我が弟分は積極的だ。
 じゃれつかれたと思うと口を塞がれていて、たしなめることすら出来ない。
 口唇(こうしんが)離れて目と目が合うとなんの悪びれもなく微笑まれて、いけないと叱る気持ちなんていつもどこかへ失せてしまう。
 ダメだぞと突き放すはずの手はいつの間にかアオイのサラリとした髪を梳いていて、ままごとみたいなキス一つで精神が溶けているのを感じる。
 目つきの悪い知り合いいわく、こういう思考回路は耳が腐るのだそうだ。
 だって仕方がないじゃないか。オレの目の前であにきと大好きと呼んでは笑うこの弟分こそが、自分にとって、この世で絶対唯一無二の宝物なのだから。
 
「あにきー……もう一回したいッスー……」
「んう!?」

 髪を撫でられて気分が高揚したのか、もう一度キスをされる。照れたような顔をしてチューのおねだりが全く止まらない。
 本当に照れているのかコイツは、照れてるフリをしてこっちを困らせて楽しんでいるんじゃないか、などと考えたところで、

「……こういうの恥ずかしいッスけど、するたび嬉しくなっちゃって止まらないッスね!」

 ああ、恥ずかしいという感情よりこうして触れ合っている幸せが上回っているから何度もこうして求めてくるのだな。
 と気づいたらもうなんだか色々止まらなくなってきた。

「にゃ!?」

 体格差を利用して思いっきり寝台に倒してやった。お前に甘いから仕返し出来ないとでも思ったかバカめ。流石に怖がるだろうと思ったけれど、何故か当の子ネコはしっぽをピコピコ動かして「えへへー……やっとこの前の続きがー……」なんて呟いている。
 この前の夜もオレ相手だから嬉しかったと言っていたが何か関係があるのだろうか。
 聞いたところではぐらかされそうだから、口以外のところを責めてみる。その柔らかい頬に口づけると、唇を合わせるのとは別の柔らかい感触がして気持ちいい。
 食べてしまいたいと思いながら頬に何度も、何度も口づけた。
 
「ふにゃー、ほっぺばっかりチューしないでくださいッスー」
「この前脅かされた仕返しなのだー……」

 頬に触れるたびに揺れ動く耳が気になって、ほっぺへの仕返しを止めないまま、時折そのふさふさした場所に指を這わす。
 耳に生えた毛は柔らかくて気持ちいいのだが、器官そのものは人と比べてペラペラしていてやや不安になる。
 それでも定期的にモフりたくなるのはネコの魅力故か。
 
「んう……にゃー……」

 なんだか声も怪しい空気がある。普段兄貴分権限で触ってる時と違うのは、一歩を踏み出そうとする今の空気のせいか。
 もっと反応が見たくなって、耳に直接息を吹きかけてみる。

「ひゃっ!」
「ネコは耳が一番敏感だからな……触るのよりこっちの方がよさそうだ」
「やー! それ、ダメッスー! ……んっ」

 耳の中まで舌を入れて舐めてやると、明らかに今までと反応が変わった。
 本当に敏感なのだ、と思いながら、空いてる方の耳を指先でもてあそぶのも忘れない。

「ふにゃー……あにきのエッチ……」

 咎める声にも力はなく、ただ身を任せてくれているのに、充足感を感じると同時にどうしようもない飢餓をも感じた。
 もっとこいつに触りたい。

「あっ……」

 いつもつけている鈴付きのケープを脱がすと、その下の上着のボタンまで手をかけた。
 妙なあせりと弟分に変な事をしている罪悪が混じって手がすべる。
 正直こんなことしたことなかったから、どうすればいいのかよくわからなくて気ばかりが急いてしまう。
 

「え、エッチというのはこういうことを言うのだ! わかったか!?」
「は、はいッス!」

 よくわからない言い訳をすることで場をごまかした。ボタンを一つ一つ外す、なんだか間が持たない、よし取れた後は脱がすだけ──。

「ひゃっ!」

 焦るあまり強盗のような勢いで脱がしてしまった。ああ怖がらせた、というか余裕も経験もないのがバレる、ええーいもうどうにでもなれ!
 露わになった肌に思いっきり顔を埋め、舌でペロペロと舐め上げた。
 上半身の衣類をはぎ取った身体はまだ男らしい体つきも形成されておらず、やけに骨も肉付きも控えめに見える。
 
「くすぐったいッス」

 サラッと、人真似をするようにアオイに髪を梳かれると気持ち良くて、肯定されているような気がして、もっともっとと欲張りになっていく。
 胸のおいしそうな粒を摘まめば、こそばゆがっていた微笑ましさも失せて、ぴくん! と身体が跳ねた。
 顔を反らしたことで見えた白い首を舐めながら、両胸をいじるのも忘れない。
 少年体形に胸のふくらみなどあるわけもないが、先端部分の独特の硬さは触れてて楽しい。
 変な気分になってきたのか、困ったような顔をして足の間をすり合わせる様子も見ていてムクムクと興奮が頭をもたげてくる。

「お胸と首、同時、は……はにゃー!」

 お気に召さないようなので、舌で胸を舐める戦法に切り替えた。独特の硬いこりこりとした先端部が口の中をも楽しませてくれる。
 ほんの少しだけ歯を立てたり、引っ張ったり。ねちっこく吸い付いて、可愛い弟分の声を引き出そうとする。

「ふにゃー……そんなの吸ってもっ……何にも、出な……あっ」
「弟分の可愛い声はいっぱい出るのだ」

 なおもチュウチュウと吸い付くアルジェンに、アオイは観念したように頭を振った。

「あ、あにき……ボク、もう、さっきっから、身体、ムズムズ、して……」

 脚の間を困ったように抑えているのを見て、最後の理性が飛んで行った。
 舌のズボンにまで手をかけて、すっかり丸裸にしてしまう。

「にゃ、にゃー……」

 ズボンを引きずり降ろされて、耳を垂れさせ、目をつむり恥ずかしそうに脚と脚を閉じてlいたが、アルジェンが開脚させるように両脚を掴むと無抵抗に全てを見せて来た。
 脚の間で立ち上がったペニス。アオイのあどけない容姿のせいか、性器自体が未発達なせいか、グロテスクというより愛らしく見えた。
 ゴクリと生唾を飲みこむ。股間に身体中の血液が集まっていくような錯覚さえ覚えた。

「触る、ぞ」

 顔もそっぽを向いて、目も閉じられたままだったが抵抗も見せなかったので、そろりそろりと中心部のそれに手を伸ばした。

「ひっ!」

 完全に視界を閉じていたせいだろうか、ほんの少し指先が触れただけで子猫の身体は敏感な刺激に跳ねた。刺激が強過ぎただろうか、少しずつさするように触れれば、ふにゃふにゃと鳴きながら縋り付いてきた。

「にゃ、にゃー、あにきー、それ……生殺しみたいっス、 やー、にゃー………」

良かれと思ったのが逆効果だったらしい、しかしそのじれったい刺激に身悶えしながら困っている様子が、既にズボンの下で持ち上がった、アルジェンの男の部分をさらに刺激する。とても正直に言えばもうしばらく困った顔を見ていたい気もあったのだが、自分もこんな状態でかわいい子ネコの嬌態を見続けていたら頭がどうにかなってしまいそうだ。さわさわと触れていた手を包み込む形に変え、しごくにも体積の少ないそこを手で往復する。

「ふにゃ! ? あ、や、あにきっ、あにきー!」
「どうした………? 嫌か?」

 額に口づけ頰にもキスをすれば、子ネコは首を何度も横に振る。

「にゃ、違うっ、の、あにきに触られたとこ………気持ち良過ぎて、変になっちゃうからっ、あっ!」

 そんな可愛いことを言って許してもらえるとでも思っているのだろうか。まだ加減が残っていた手を、しごくだけでなく尿道口まで指先でいじくりまわし、下の小さくも膨れた玉の部分もつまむのも忘れない。

「ふにゃ 、っひ、ダメ 、ボク、おかしく………」
「いいぞ……おかしくなっても。オレはそんなアオイも好きだ」

ネコの耳に囁けば、好きと言われて嬉しかったのかピコピコと耳が動く。そんな一つ一つの仕草が愛おしくて、フカフカの耳を舐めながら、腕の中の子ネコを絶頂に導いた。

「あ、ふにゃ、ニャ、出ちゃう……っ! や、あああーっ!」

 ドロリと熱く粘ついた液体が手の中に振りまかれ、緊張状態だったアオイの身体が寝台の上に投げ出される。頰に涙の跡を残し、ゼイゼイと息を荒く吐く姿を見て、やっと自分のやった事をはっきり自覚して罪悪感が湧いたが、子ネコはそんな兄貴分の心情などお構いなしに、頰をすり寄せて甘えてくる。

「あにきー……」
「……すまなかったな、怖かったろう……もう、しないのだ………っ!? 」

 青年が身体を放そうとしたところで、子ネコは飛びつくようなキスをした。たどたどしく小さな舌がアルジェンの口の中に入って来て、青年の舌と控えめに絡みつき、離れていく。

「……ボク、あにきの宝物で、いいんですよね……?」
「う、あ、そ、そうだ。だから、お前を怖がらせるような、ことは」
「 怖くなかったッス、恥ずかしかったッスけど、ボクあにきのものなんだって思えて、だから─」

 身体を再び投げ出して、両手両足を広げて、アオイは最上最大級の甘えを見せた。

「 宝物なら……ボクを好きにして……ぼ、ボクを、あ、あにきのものにしてくださいッス……」
「ぐはっ!」

  しかし悲しいかな、その言葉と好意は、アオイと同じく経験のないアルジェンにはやや刺激が強すぎた。鼻の血管と股間が爆発しそうな言葉にクラッとしつつ、体勢を立て直すと、子ネコの達したばかりのそこに手を当てた。

「……そういう可愛い事を言うのはどこのネコだ! この! この!」
「ヒャ! あっ……あにき!?」

 手と性器に絡みついたままの体液が程よい滑りとなり、ヌチャヌチャと生々しい音を立てながら再びアオイを快感の渦に叩き込む。落ち着き始めていた息がまた荒く激しくなり、赤くなった目に涙がにじむ。

「……お前は! 変な気を使わず! オレのそばでニャーニャー言っていればいいのだ!」
「にゃっ、あにき、ごめんなさっ……」

 誘ったわりに攻められると余裕がなくなったようで、威厳のない叱責にもしおらしく子ネコはすがる。

「ひゃっ……んん、ごめんなさい、あにき、あにき……っ!」
「ええーいゆるさん一生ゆるさん! お前は一生オレの弟分ネコだ!」
「ほ、ホントに……? 怒って、ない? ボクあにきのおそばにいてもいい……?」

 子ネコの健気な言葉に、青年のなけなしの意地もどこかに失せて。

「……むしろ、そばにいてくれ……」
「…………あ、にゃ、にゃううううっ!」
 
 慕い寄り添う人の甘い言葉を聞きながら、アオイは二度目の性を青年の手の中に吐き出した。



 幸せそうに布団の中で丸くなっている子ネコの寝顔を眺めながら、オレに意気地がなかったわけじゃない! とアルジェンは誰にともなく言い訳をした。弟分の幸せを考えるのなら、なんて綺麗事を吐けるほど彼は大人じゃなかったし、もし今アオイが自分から離れることがあったとしたら、かろうじて縛りつけるようなことはせず抑えられても、きっと寂しさと誰かへの嫉妬で立ち直れない。

 ……そのくらい、滑稽なほど必死で、大事だからこそ。かたわらに寄り添う子ネコに事を急がせず、大事にしたかったのだ。

 アオイのサラサラした髪を撫で、耳にもこしょこしょイタズラをしかければ、あにきーと幼い呼びかけがもしょもしょ寝言で飛んで来て、くすぐったいような気持ちになる。

 無防備な寝顔に出しそこねた愚息が起き上がりそうになるが、ええい我慢しろ! と自分自身に念じて抑え込みつつ、青年は子ネコの髪を撫で続けるのだった。