ネコの大半が多分そうであるように、アルジェンの弟分ネコのアオイも寒いのが苦手なようだった。宿に着いて暖炉も点(つ)いて、まだ「ニャー寒い!」と鳴いている。

「ほーら来るのだ。こっちの布団はあったか〜いぞー」

 その様子が哀れだったので、宿の布団にくるまりながら、蛍を呼ぶような調子でネコを呼ぶ。

「にゃーん!あったかー」

 布団につられてネコが釣れた。釣果を堪能するべく布団にくるんで髪を撫でる。フワンと髪の匂いが香る。昼間歩いたお日さまのおもかげ。空に匂いがあるのなら、きっとこんな匂いがするのだろう。じゃあ弟分ネコが留守にしてさみしい時は空の匂いを嗅げばいいのか。いや匂いなんかしないし。モフりたきゃ今存分にモフればいいし。クンクンモフモフナデナデナデ。

「ブルスコニャー、ブルスコニャー……いやーん、いにゃーん」
 

 摩訶不思議な鳴き声が至福の音階で聞こえてきたので、ペラペラのネコミミを堪能してやることにした。仰向けに転がったアオイに覆いかぶさってひたすら耳の後ろを優しく指で撫でる鬼畜の所業。

「あにきー、あにきー、ニャーゴゴロゴロニャーゴ……」

 この程度で止めるほどお人好しではない。後ろのしっぽにまで手を伸ばし、さわさわふわふわにゃわにゃわやわやわ。

「はっ!?」

 恐ろしい事実に気づいた。

「冬毛なのだ!!!」
「今頃気づいたんスか?」

 耳もしっぽも、手触りが高級な絨毯みたいにフワッフワになっている。オレの弟分ネコは人知れず冬の準備をしていたのだ。立派だ立派。ということで今日はもうネコを抱っこして寝よう。

「おやすみなさいあにきー」
「ああ、おやすみアオイ」

 目を閉じ眠ろうとして、

「……また明日」

 思い直し付け足した。

 トレジャーハンターとして生きると決めたあの日から、オレが死ぬ時は遺跡か洞窟かはたまた見知らぬ土地の大地に伏して崩れて溶けるのだとおもっていた。それが今はフカフカの布団に弟分ネコと潜って意識を溶かしている。これでいい。もう寝入ったらしいアオイがもしょもしょあにきーと呼んだのを聞き取って、その甘さ温かさに意識は完全に溶けて消える。