ふわあっとネコがあくびをする。のどかな昼下がりの午後、街中の風景にふさわしい光景だ。

しかしここは宿の部屋の一つで、ついでに言えば寝台の上で、今は朝だ。

「おはようございますあにきー」
「おはようなのだー」

銀色の髪を朝日にきらめかせ、アルジェンがまだ眠たそうにあいさつを返す。キラキラにアオイが見入っていると寝間着のボタンを夜中の二人きりの騒ぎで掛け違えているのに気づいた。たくましい胸がチラリズムしていてドキドキしてしまう。

「あにき、おめしものが乱れているッス」
「アオイの髪もネコネコネコっ毛なのだー……」

 子ネコは主人の着物を、飼い主は飼いネコの寝癖を手ぐしで整える。髪はともかく寝間着を今更整えてもどうせ着替えるのだからあまり意味はないのだが、アオイが自分の世話を焼くのが嬉しいアルジェンは好きにさせていた。

 寝癖は道具を何も使わない手ぐしではなかなか取れず、先に服を整え終わったアオイはただの戯れのような行為に身を任せるだけになった。

 手ぐしでは直らないと悟ったらしいアルジェンの手は、道具を取りに行くでもなくアオイの頭をなでるだけの形になった。

 アルジェンが離れないのでアオイも離れる気がしない。アルジェンのナデナデはとっても気持ちいいので、自分から離れてナデナデ分が減るのが嫌だった。

 しかし困った事に気持ち良すぎて眠い。昨日のアルジェンは今の優しい手つきと違って激しかった上だいぶ夜中までアオイを許してくれなかったので眠い。何故夜にアルジェンの寝台に潜り込みアルジェンの膝の上でローリングゴロゴロをしただけで「人を挑発した罰」を受けなければ、いやそれはアオイの望むところなのだが。

 しかしこのままではまずい、昨日とはべつの意味で気持ち良すぎて絶対寝る寝てしまう、寝ない寝ないネコのように寝たらいけない。

「くかー」

 結局ネコと化したため、またアルジェンもつられてしまったため、二人がまた起きたのはちょうど冒頭のネコがあくびをするにふさわしい午後になってしまい、ケガの功名というのだろうか、アルジェンの寝間着を直した意味が出来た。