タイトル通り、栗本薫氏が十代後半~二十歳、つまりご本人も後書きで言ってる通り学生時代に書いたものをまとめた作品。元カレと付き合って別れるまでの赤裸々ポエムみたいな作品まで収録されている。
文豪の死後、勝手に重要資料として永久保存されちゃってるラブレターに近いものまで、本人公認で堂々と出してくれた作家は貴重であると思う。好きな作家程こういうの覗いてみたいけど、本人は恥ずかしいから隠しちゃうもんだからね。
栗本さんの遺稿を何でもかんでも出して来る遺族の姿勢には色々な意見もあるとは思うが、後からハマって好きな作品や作家の著作・関連作が入手困難で困ることが多々ある1オタクとしては、生前から合意で全てをさらけ出してくれる姿勢はありがたいなと思う。ほっとんど電子でも出されまくってるのを思うと、この作家にどっぷりハマれたらありがたいのではないか?と思う。私は良さそうなのを行儀悪くつまみ食いしてるだけだけど……。
【第一部 十七歳】(書いた年齢毎に章仕立てになって分けられている構成)
【ぬくもり】ぬくもりが欲しい女性の話。お母さんも死んでるし父は愛してくれない、だからぬくもりが欲しいの、骨の髄まで愛してほしいのぉ!という、栗本先生得意のカワイイメンヘラ女の話。ラストの妙に生活染みていて、想像するとグロイラストは、栗本さん得意の生活感と凄まじい文章力が既にこの時点で健在であり、読み応えがある。
【第二部 十八歳】
【接吻】表題作。死が間近な美少年が、クラスメイトの男の子とキスしちゃったのを唯一の思い出として死を迎えようとしてる、そんな感じのお話。安定の美しい文章力で良い感じなんだけど、短い。
【ママンの恋】ゲイバーのママンと黒人青年の恋の話。コレが一番面白かった。冒頭の、語り部の青年の「いつか忘れ去られても、原初の話として残り続けて欲しい」と美しい文体で語られるところなんて、感性の美しさで開始いきなり泣きそうになった。若い頃の作品だから、文章の書き方も若干ミスってるけど、そんな事は関係なく感動した。作者のこだわりが見える話。
【高野詣 ─色子曼茶羅】身体を売る男娼も兼ねた役者の少年に恋をして最終的に嫉妬で殺しちゃう男の話。流石の文章力というか、男が惚れこんだ白菊の精の劇の描写なんかは、情景がありありと目の前に浮かんでくるようだった。片恋の末に身勝手に少年を殺してモノにしてしまっただけの話といえばそうだが、この文章力には押し切られてしまう。まあ男が惚れた少年の幸せを願い切れず、嫉妬したのもわかる。
【第三部 十九歳】
【おゆき】行き遅れ女が、改革派の青年のところに嫁ぐ話。いわゆる政略結婚とか、親に決められた恋でも本人の幸せは本人にしかわからないという話。何もないようで、流されているようで、自分で選んでここにいるのだという意志でもって、父の想いとは裏腹におゆきは幸せなのだと閉じていく終幕はなかなか個人的には刺さった。【ママンの恋】と並んでお気に入りの話。
【十二月】こっから急に読みづれぇんだよなぁ……まあ、どうもコレは彼氏が出来た頃に書いた浮かれたポエムらしいからしょうがないけど……。
【神のあやまち──フレデリックの手紙】高野詣の洋風版みたいな。こっちは普通に小説なんだけど、どうも読みづらいというか入りにくい。
【不在】これも彼氏が出来た頃のポエムみたいなもんなのかな?でも小気味の良い短編でこっちはスラスラと読めた。ホラーのキモイ描写に関して、やっぱりこの人はセンスがあるなぁ。
【第四部 二十代】
【二十歳の遺書】彼氏と別れた!もういい!みたいな独白。いやー、ぶっちゃけると下世話な興味で、こういう恋愛中の女子の浮かれた文章読みたくてこの本手に取ったんだけど、全体的にこのパートは読みづらかったですな……。まあ冷静じゃない時に書いた文章って後から見るとアレだよね。夜中に書いたラブレターみたいなね。こういう体験があるわけじゃないけど、なんか共感性羞恥。
【壮士の雪】おゆきの改革系男子を、男子達に焦点当てて書いたような話。あんまおゆきほどは刺さらなかったかなぁ。
【Blues withs a feeling】チエとかいう、あんま美人じゃないけど妙にモテる女の子が、男の純情をもてあそぶような話。家族構成などを考えると、モロに作者本人がモデル。でもチエちゃんカワイイっていうか、こういう女がモテるのわかるんだよな。そんで最終的に自分が引っかけた男に殺される?のも。後の商業作「ワンナイト・ララバイに背を向けて」という作品のプロトタイプでもあるらしい。栗本先生は変な女、メンドクサイヘラッてる女描く方が良い。なんかこの人の書く女の人って変なの、ヤバイの含めてみんな可愛いんだよな……。
さすがに若い頃の作品だけあって玉石混淆って感じだけど、十代後半で既に文章がメチャクチャ上手くてスゴイ。そしてこの人の書くメンヘラ女と寂しさの味わいはここでしか味わえない良さがあると思う。こういう粗削りな試行錯誤時代を気軽に読める作家の存在は、やっぱりありがたいと思う。