アオイは何故かデカい鍋でスープを作ることが多いのだが、今日はにゃんにゃん歌いながら巻き寿司を作っている。今日は節分だからだ。
 海苔巻きする時に使う竹のアレ(巻きすだれという)を使いながら器用ににゃんにゃん巻いている。
 アルジェンはそれを可愛いなあとか思いながらアオイの代わりに豚汁を作っている。
 おてしょ皿についで味を見る。うむうまい。味付けが濃い方が好きなので濃いめである。
 テーブルにお椀と鍋を置いて思いを馳せる。
 恵方巻きを食べるオレの弟分。

 ◯
 
「ん……、ダメ、こんなに大きいの食べきれないッス」
「ふふ……ダメだぞ、恵方巻きは食べ終わるまで喋ったらいけないのだ」
「むぐっ!」

 小さな口いっぱいに太く長いものを押し付けてやる。健気に口いっぱい頬張りながら食するアオイにぞくぞくとしたものを感じた。

「モゴ……モグ……んぐ……」
「ハハハ、最後まできちんと食べきればご褒美が待っているぞ? 縁起という名のな」
「モゴ……もぐもぐ……っ」

 もう抵抗する気力もなく、子ネコは黙って押し付けられたものを飲み干すばかりだった。
 
 ◯

「な、なにを考えているのだオレは!」

 頭をブンブン振って席についた。
 アオイはまだ恵方巻きを作成中だ。いっぱい作るので時間がかかっているらしい。

「あにきー出来たッスー!」
「おお、ごくろうなのだ……」

 皿に乗った恵方巻きを見て、アルジェンは脱力した。

「去年ボクがでっかく作り過ぎてあにきが喉に詰まらせちゃったから小さく切ったッス。切って食べてもキチンとおいしく食べればきっといいことあるッスよ! ……あれ、あにき? 突っ伏しちゃってどうしたんスか? あにきー」

 去年の自分のドジを自分で責めるのにしばらく忙しかったが、誤解のないように言っておくと、弟分ネコが作った刺身がいっぱいの恵方巻きはとてもおいしかった。