アルジェンは青空の中を落ちていた。カッコいいからと伸ばしっぱなしだった銀髪が前髪も先端を赤いリボンでまとめた後ろ髪も全部ブワーッと上に持ち上がって、上着はいまにも吹っ飛びそうで風はバシバシ身体に当たる。
 ダンジョンでもないのに、空には宝が散っていた。雲を突っ切り、落ちる途中でそれらを手に取ってみる。
 光で真逆の色に変わる宝石。大地だって割れそうな切れ味のナイフ。開けると噛みついてくる宝箱型のモンスター(頭からかじられた)。真っ白な雪を周囲に散らし続ける雪だるま。
 世界の端まで映せる鏡。カッコいいジャケット。夜空の星を捕まえて繋げたネックレス。
 けれども全部すり抜けて、アルジェンの手元に残らない。
 せめてこれだけはと、反射的に空を抱きしめる。
 空を抱きしめたところで何もつかめない。
 何も残りはしない。
 青年は実態のないそれをひしと抱きしめながら、真昼の流星のように落下しつづける……。

 ◯


「ンガ……?」

 目を開けると布団の上で、夕暮れの光がまぶしい。読んでいた本が布団の道連れとして床に落っこちている。
 アルジェンはまだ自分が何かを抱えていることに気が付いた。
 時々ふにゃふにゃ鳴きながらグースカ寝息を立てている。
 スピスピ言ってる鼻を思わずつっついてしまったら、空色の髪と似た色合いの目が眠そうに開く。
 
「……ニャー、起きたらあにきがゴキゲンだ」
「夢見が良かったからな」

 昼寝で一足飛びにやって来た夕暮れの時間の中で、青い子ネコだけが空の夢の名残を持っていた。