弟分ネコのアオイの前ではお花畑な友人が、今日は本当に花畑の一部を引き連れて帰って来た。
 黙って顔を引き締めていればそれなりに美形に見えるはずのアルジェンは、今日もうきうきゴキゲンニコニコで、年相応の顔つきには見えない。

「どーしたのその花束」
「花屋があってな、なんでも魔法で各種季節の花を咲かせているんだとか。種類が多すぎて逆に迷ったから一本ずつ気に入ったのを花束にしてもらったのだ、ミドにもやろう」

 そう言って笑顔で差し出された花がライラックなのは偶然だろうか。
 友情の花を指先でいじっていると、ナランハにも黄色い小さな花を渡す。
 
「ほーらオトギリソウだ。目つきこわ男にとても相応しい花だと思って買って来たのだ、感謝するがいい」
「ありがとよ、テメーには今度スノードロップでも送り返してやるよ、白い花がテメーのクソ白髪にピッタリだろ?」

 ……こっちは確信犯らしい。にこやかに敵意と相手の死を贈り合ってから、アルジェンはとうとう本命の子ネコにたどり着く。

「わー、きれいなお花ッス!」
「可愛い可愛い弟分へ、ホワイトデーのお返しなのだ」

 そういえばひと月前に会ったときも、アルジェンはバレンタインデーだからと手作りチョコ菓子をあーんして食わせてもらってたっけなあ……とミドは遠い目になる。

「しばらくこの街に滞在するんスよね、お花飾っておくッス」

 部屋に置いてあったカラの花瓶に水を汲んできて、アオイはそこに花を一本ずつ差し込んで行った。
 あーにきからーのープーレゼントぉーと楽しそうに歌っているのを見ると、贈り物を一つ一つ、味わうように見たいという魂胆があるようだ。
 他の花を立てる清らかなカスミソウ。華麗なオレンジのユリ。情熱の赤いバラ。一目惚れ間違いなしの小柄で可愛いひまわり。
 嫉妬の赤いシクラメン。あなたを捕えて離さぬイカリソウ。嫌われたら死んでやる気概のスグリ。
 ……なんだか後半怖い花が混じっているような気がする。
 花なんか一つにいくつもの花言葉があるから、単なる偶然かなあ……なんて思ったところで、危険な愛のゼラニウムが、あにきを賛美するお歌を歌うネコの手によって花瓶に活けられる。
 にゃんだかこれも作為を感じる。
 というかイカリソウなんて特に、好きな人には悪いが花束には適さない変な形の花である。
 故意に選んだのでなければ自然と引き寄せられたのだろうか。子ネコを抱きしめて離さない、花と似た性質を持った友人。
 時に魔法の触媒にも使われる花は、花が持つ言葉と似た気質の人間が無意識のうちに魅力を感じやすい。
 昔少しだけ魔術の勉強をした時読んだ本に描いてあった記憶がある。
 どこまで本当か怪しいものだが。

(……本に記述されてたのがマジにしても、今んとこ狂気の花が咲く予兆はねーなあ)

 花を飾ったテーブル越しに仲良く顔を見合わせる兄弟分たちを見て、ミドは思考をやめた。