「お酒ってそんなにおいしいんスか?」

 宿の部屋で探検後の一杯を楽しむアルジェンに問いかけるのは、横の席に腰かけるアオイである。そういうネコこそ、魚ってそんなにおいしいのかと尋ね返したくなるほどアルジェンが分けてやった魚のつまみに舌包みをうっているのだが。

「かわいい弟分と飲む酒はうまいからな」
「にゃるほどカッコいいあにきと食べるお魚がおいしいのと一緒ッスね」

 酔ったズレた返事にツッコミの一つもなく納得する子ネコ。

「ボクも大きくなってあにきとお酒飲んだら良さもわかるのかなあ」
「う、うむ……」

 サラリと言った言葉は酒を交わせるようになる日までそばにいる気だという事を暗に告げていて。とっくにずっと一緒にいたいという宝物の言葉をもらっていたのに、酔いが一瞬冷めるほどの照れと幸福が、酒よりも強くアルジェンの臓腑へと染み渡る。

「にゃっ」

 幸福の象徴を膝の上へ抱き上げて、じっと深い青空の瞳を覗き見る。ずらされた視線がただの照れなのを知っているから、アルジェンの絡み 酒は自重を知らない。

「試してみるか?」
「にゃ、にゃ……?」
「酒」

 アオイが返事をする前にその照れた顔めがけてキスをした。酒の味を教えるためという大義名分を抱えて、ちっちゃな舌に自分の舌を絡ませる。  

「んん……っ!」

 酒の勢いも手伝っていつになく強気に攻めてくる飼い主にも、健気な子ネコは不平一つ漏らさなかった。もっとも文句があったところで、口が塞がっているわけだからどうしようもないのだが。

「……あれ、甘いッス」
「甘めの果実酒だからな」
「わー、にゃんかすごーい、ねえねえあにきもう一回!」
「可愛い弟分の願いなら仕方がないのだ」

 仕方ないなどと言いつつ口元がにやけているのを隠しもしないで、青年は腕の中の子ネコに第二撃を加える。

「……やっぱり甘いッス」
「……甘いな」

 酒の匂いのせいではない赤い顔で飼い主の顔を見上げて言う感想もまた、酒のせいなどではないのだろう。三回目はもう大義名分なんか二人して忘れてどっちからともわからない勢いでキスをしていた。

 溶け合い、混じり合いを繰り返し、繰り返ししているうちに、飼い主の腕に添えられた子ネコの手がすがるように服を掴み。甘えに我慢が効かなくなった青年は、腕の中の宝物と寝台になだれ込む。

 酒というより雰囲気に酔ったように転がる子ネコがどんな味なのか。想像をめぐらせながら、アルジェンは自分の唇を舐めた。