※大したことないかもしれませんが、思考が倒錯している描写あるので一応注意




 寒ければ暖を取る。生き物なら当たり前のことだ。ネコは温かいところが大好き。
 暖炉の前も、日の差す塀の上も、ふわふわした絨毯も、お布団の中も。
 でも一番は。

「いつもの通り甘えネコだな」

 一番あったかいところにくっつくと、一番あったかい笑顔が返ってくる。
 寄り掛かった腕に頬をすり寄せて、自分の両腕を絡めると「身動きがとれないじゃないか」と言いながら自由なほうの腕で頭を撫でてくる。
 アルジェンがソファーやベッド(今はベッド)に腰かけていると、自然に横にくっつくようになってしまってどのくらい経ったのか。
 ネコでおばあちゃんっ子で甘えっこだったから、アオイは寒いのも寂しいのも苦手だ。
 だから一番あったかくて、一番満たされるアルジェンのそばに肉体的にも精神的にもベッタリしてしまう。
 甘えすぎてる自覚はある。あるけれどいつもアルジェンが甘やかしてくれるから、それに抗えるほど意志が強いわけじゃなかった。
 特にこんな、温かくしている宿の部屋の中でも少し寒いような、冬の一日は。
 
「くっつくならこっちの方があったかいぞ」

 兄貴分が自分の膝をポンポンと叩く形で誘導してくると、もうアオイは全然自分の欲望に抗えない。
 にゃんっ! と思い切り飛びついてしまって、うわあっ! とアルジェンを驚かせてしまった。
 自分は悪いネコで弟分だ。と思うが頭を胸にすり寄せて背中にギューッと抱きつくのをやめられない。
 
「かわいいさみしん坊ネコなのだ」

 
 優しいあにきは一生懸命子ネコのことを受け止めてくれたが、グイグイ身体を押し付けすぎて布団の上に後ろ向きに倒れてしまった。
 ここまで懐かれたネコにベタベタされてフニャフニャ笑顔になっていたアルジェンも、この勢いには戸惑ったようだ。
 少し困ったように身体の上にいるアオイを抱きしめる。

「コラコラ、どうしたのだ。今日はどこかに出かける予定もないし、好きなだけくっついてていいから落ち着くのだ」

 甘えん坊を落ち着かせるためだろう、アルジェンは強くアオイを抱きしめてくれたが、それは今のアオイには逆効果である。
 この温かい人にもっともっとくっついていたい。もっと触って欲しい。こんな服越しじゃなくて、もっともっと。

「……あーにき」
「んぐっ!?」

 許可もなく愛しい人の唇を奪って、舌を差し込む。もう数えきれないくらいしていることだから、どこが一番感じるかなんてことはネコにはお見通しだ。
 べったりくっついた青年の身体がネコの舌の動きと共に震えて、背中に回されていた腕が肩にまわり、強制的に引きはがされる。
 
「やったな、この……っ」

 優しげだった金色の目がアオイを睨みつけてきて、子ネコを甘やかすモードからいじめるモードへスイッチが入ってしまったのがよくわかった。
 形勢逆転、勢いで押し倒していたのが一転して、背中に寝台のフカフカした感触を味わう。
 これから何をされるのか想像しただけで、アオイの身体は熱を持った。 

 〇

「あ、あにき、待って……」
「待たん。誘ったのはお前だ、悪いネコめっ」
 
 しかり飛ばすような言い方で、服を脱がしていく手つきは乱暴だが、額に落とされたキスはとても優しい。
 激しくされるのも、触れるようなキスも好きだからそれはいいのだけれど。

「ち、違うの……あにきも、脱いでほしいッス……あにきの事、いっぱい感じたいから……」
「……! あ、ああ……そうだな」

 がっついてみっともない。とばかりに頬を赤くして、アルジェンは服を脱ぎ捨てた。
 おんなじようにアオイの服も全部取り払われて、余計なものが一つもない、好きなだけ触れ合える格好になる。

「アオイ……」

 今すぐにでも貪りたいような顔で、まずはキスから。口づけまで加減してやる気はないのか、ヌルリと舌が入って来て、上あごをくすぐってくる。
 初めての時は触れるだけだったそれも、こうして深くするのが当たり前になってしまっていた。
 肩や腹、胸、腕もそっと口で触れられた後に強く吸われる。
 作られた所有の焼き印のそれらの部分がずっと熱い。
 アルジェンの使う火がつけられたみたいだ。
 
「にゃ……ん、ふう……」
「きつくないか?」
「うっ、うん……平気、あにき……♪」

 中を解す指が動くだけでそこから焼けていくようだった。
 髪を撫でられたりしながら、受け入れさせられる準備をされるだけで体中が熱いのに、さっきから青年の脚の間で張り詰めっぱなしのモノが入ってきたらどうなってしまうのか。
 嫌というほど自分の身体を使われる形で思い知らされているはずなのに、実感しながら改めて知りたいと思ってしまった。

「ふっ、う……あーにき♪」

 髪を撫で返したり、背中をさすっていた手を離し、腕を広げて。

「もう、平気ッスから……こっち、来て欲しいな」

 出来るだけ悪い、いやらしいネコに見えるように飼い主を誘った。
 乱暴に引き抜かれた指と入れ替わりに、さっきちらりと盗み見たモノが容赦なく入ってくる。
 ここは自分専用の場所とばかりに、強盗のように入って来たそれに蹂躙されると、肌に残された赤い跡よりずっと強烈な焼き印を押し付けられているのを実感する。
 自分の所持する性器より立派なモノに奥を何度もこすられるたび、自分はアルジェンのものだとわからされる。

「アオイ……ッ、アオイ……!」

 アオイの方から誘うとすっかりアルジェンから余裕が消えうせるのが、何度理性を奪っても不思議な感じだった。
 カッコイイあにきならこんなちっちゃいオスネコじゃなくて、もっと綺麗な女の人とだって経験あるだろうに。
 と思ったら一番気持ちいい真っ只中にいるのに、胸だけがチクンとした。確かにあるだろうけれど、自分と出会う前のことだ。わかってるのに。

「にゃっ、にゃあ……ン、はあ、あにきと繋がってるとこ、熱いな……あにきに熱くされるの……好き」

 誰にもされてないはずの事を、してほしくなってしまった。

「もし……もしもねっ、ボクが先に死んじゃったら、あにきの魔法で何にも残んないくらい焼いてほしいな……そしたらあにきの火の魔法の中の燃料みたいになって、ずーっと一緒にいられるから」
「……っ!」

 言葉を聞いた、アオイの中にあるアルジェンのモノからヤケドしそうな粘液が大量に噴き出るのを感じた。
 粘っこくて取れない、性器と同じくらい熱を持った液体を出されて、アオイも達してしまう。

「……そんな怖い事、言わないでくれ」
「んにゃっ……」

 達した余韻にも浸れないくらい切ない顔をしたアルジェンに、アオイも謝ろうと思ったのだが。
 冷や水をかけられたようなアルジェンに不安を消すように激しく激しく求められたせいで、アオイは謝罪する間もなく泣き叫んで意識を手放してしまった。
 触れあったところから伝わる、兄貴分に流れる魔力が、嵐みたいに荒れているのを感じながら。

 〇

 ──怖いって言うならどう考えても自分の方なのだ。
 噛み跡だらけにしてしまって痛々しい、眠り込んだ子ネコの身体を今更労わって撫でながらアルジェンは自虐した。
 こんなふうにしても従順な弟分は翌朝笑って許してくれるのだろうなと思うと自分は幸せ者だとは思うが。
 同時にどうしようもなく倒錯しているなと思った。

 アオイの遺体を自分で焼き尽くす想像をしてイってしまうだなんて。

 子どものころ、二度と動くことのなくなった孤児仲間を埋葬したことはある。
 でもそれだって遺体を焼くことはなかったし、弔いという以上にもう動かない仲間を見えない場所に追いやってしまいたいという気持ちが、他の仲間にも自分にもあったのだと思う。自分や他の仲間にもいつか訪れるかもしれない恐ろしい出来事と、もう動いて喋るそいつに逢えないという悲しみから逃れるための逃避。
 でもさっきの興奮は明らかに、アオイを永遠に自分のものにする想像をして自分の精神と身体が悦んだせいだ。 
 アオイの事を土に埋めて自然にくれてやるなんて確かに嫌だな、いい考えだと。
 前提として、傍らの弟分が先に逝くなんてことは考えただけで気が狂いそうだが、そういう風にも思ってしまった。 
 人生何があるかなんて誰にわかることでもなし。
 アオイという財宝を見つけたことだって、少し前の自分には予想も出来なかっただろう。
 
 ただの睦言の一環として言ったのなんて、アルジェンにもわかっている。
 わかっているのだが、別にいいじゃないか。本人がそう言ってるのだし、コイツはオレのものだろう。
 やがてアオイと共に眠りについても。そういう自分を、アルジェンは最後まで否定することが出来なかった。