街で評判の美味い海鮮料理屋で二人、魚料理に舌鼓をうって店の外に出るともう真っ暗だった。月明かりと魔力で光る街灯を頼りに帰路に着く。

 今日の月はまん丸金貨のようで、くっきりとしている。じゃれたくなったアオイが月に向かってネコの手を伸ばすと隣を歩くアルジェンが笑った。月の夜のアルジェンは、銀色の髪が風になびいて綺麗に艶めく。カッコイイ。と思いながらアオイは言った。

「月がキレイッスね、あにき!」

 アオイとしては素直な感想を言っただけなのだが。アルジェンは月とそっくりの金色の目を見開いて、それから初心に顔を染めた。

「よく知ってるな、そんなロマンティックな事」
「にゃ?」
「あー……知らんのか。まあそうだな、自意識過剰だったのだ。その……あなたを愛していますって意味があるのだ」

 ──アオイにそんな事言われたから、つい浮かれてしまったのだ。偶然もらった宝を離さないと言うように、自分の胸をそっと抑える大きな手。ネコは青年に寄り添って、自分より大柄な体躯に抱きつく。

「ボク、そういうのは知らなかったッス。ただあにきと見る月がキレイだなーって」
「オレも弟分ネコと見る月は、格別綺麗に見えるのだ」
「だからあにきが好きって言うなら直接言うし、言いたいなーって思うッス。あにき大好き!」
「……ハハッ、素直だなアオイは……」

 アルジェンが小さな身体を持ち上げて、額にキスを落とすと、ネコは「ニャッ!」と驚いて、アルジェンは少し意地悪な顔になった。アルジェンがアオイを見る目は、いつもトラが回って出来たバターみたいに溶けているから珍しい。

「せっかくだからあの月を一緒に取るのだ。オレが高く持ち上げるから、アオイはもう一度手を伸ばすのだ」
「は、はいッス! お月さまが取れたら高く売れるッスね!  頑張るッス!」

 取れっこないのなんて、もちろんアルジェンもアオイもわかっているけれども。小さな思い出だけはつかめるように、持ち上げられていつもより近くに感じる月に、アオイは手を伸ばした。