真偽は謎だが、俗っぽいことが大好きなどこかの研究者は言ったらしい。
──ネコミミ族はかつて本当にただのネコであったから、仕草その他がネコくさいのだ。
ばあちゃんの知恵袋から飛び出してしてきた知識の一つだったが、幼い頃のアオイに真偽はわからなかった。
ただ、むかしからばあちゃんの膝の上でウトウトするのが大好きだったことは事実である。
ちっちゃな身体を抱き上げられて、頭を撫でられながら祖母の頭の知恵袋から飛び出す知識を聞くのが日課だった。
そんな風に愛情込めて育てられたせいだろうか。アオイは結構な甘えっ子に育った。
常識はある。ネコでもあり人でもあるから理性もある。
しかし甘えさせてくれる人には非常に素直であった。
ことに憧れの存在とあれば。
「あにきー」
「ん?」
愛称で呼べば、愛用のナイフを手入れするのを止めて、あにきことアルジェンがこっちを向いてくれる。
綺麗な長髪でお顔も整っているものだからちょっぴり神々しくて近寄りがたいオーラがある(とアオイは思い込んでいる)のだが、彼のこちらを見る目がいつも柔らかいものだから、子ネコは委縮せずに済むのである。
「ニャー……特に用事があるってわけじゃないんスけど……」
宿のベッドに腰かけ、布でナイフについた細かなゴミや血をふき取る彼の長い指をじーっと見ていたら、なんだかたまらなくなって自分も横に押しかけてしまった。
「危ないからあまり寄ってはダメなのだ」
「はーいッス……あにきっていっぱいナイフ持ってるみたいッスけど、あれ全部こうやって手入れしてるんスか?」
道中の魔物と戦うときなど、アルジェンは雨やドカ雪みたいにナイフを出してはブン投げているのだが、あの軽装のどこからあんなにナイフが出てくるのかは一緒にいる子ネコにもよくわからない。
「ああ、鋭利な切っ先で持ち主を助けてくれる武器も、こうしてたまに整えてやらないと助けてくれなくなるからな」
意図したものか、それとも相手に接する態度がそのまま出ているのか、アルジェンの教えは子ネコにもわかりやすい。
ばあちゃんも物知りだったが、あにきもとっても物知りだ。
お兄さんの知恵袋。愛称に合わせてあにきの知恵袋の方がしっくりくるだろうか?
言い聞かせられた通り、アオイは少しだけ距離を置いて、おとなしく手入れの様子を眺めている。
見られて気にするタイプでないのか、アルジェンの動作に不良はない。
むしろ弟分に見られて気合が入っているのか、手つきがちょっと得意げですらある。
お日様の光が窓から入って、青年の銀の髪を照らす。
手元の刃物の切っ先よりキラキラだ、とアオイは思った。
「……よし、これで終わりなのだ」
最後の一本が鞘に収まれば、もう危ないからと兄貴と子ネコの距離を制限するものはない。
「ニャー……あにきー」
甘えっ子スイッチがオンになった。人の理性はどこかに消えて、ネコの欲望だけが残る。
高い位置にある肩に、アオイは自分の頭を寄りかからせた。
「可愛い頑張りでオレを助けてくれる弟分も、構ってやらないと寂しがるからな……よしよし」
少しからかうような優しい口調で、アルジェンはアオイの頭を撫でる。
──ネコミミ族はかつて本当にただのネコであったから、ひなたや人の膝の上などのあたたかいところが大好きなのだ。
俗っぽいことが大好きな研究者はそうも言っていたらしい。
まだまだ幼く、研究者でもないアオイに真実はわからないが。
少なくとも子ネコはあにきに触れられると伝わってくるあたたかな体温が大好きである。
──ネコミミ族はかつて本当にただのネコであったから、仕草その他がネコくさいのだ。
ばあちゃんの知恵袋から飛び出してしてきた知識の一つだったが、幼い頃のアオイに真偽はわからなかった。
ただ、むかしからばあちゃんの膝の上でウトウトするのが大好きだったことは事実である。
ちっちゃな身体を抱き上げられて、頭を撫でられながら祖母の頭の知恵袋から飛び出す知識を聞くのが日課だった。
そんな風に愛情込めて育てられたせいだろうか。アオイは結構な甘えっ子に育った。
常識はある。ネコでもあり人でもあるから理性もある。
しかし甘えさせてくれる人には非常に素直であった。
ことに憧れの存在とあれば。
「あにきー」
「ん?」
愛称で呼べば、愛用のナイフを手入れするのを止めて、あにきことアルジェンがこっちを向いてくれる。
綺麗な長髪でお顔も整っているものだからちょっぴり神々しくて近寄りがたいオーラがある(とアオイは思い込んでいる)のだが、彼のこちらを見る目がいつも柔らかいものだから、子ネコは委縮せずに済むのである。
「ニャー……特に用事があるってわけじゃないんスけど……」
宿のベッドに腰かけ、布でナイフについた細かなゴミや血をふき取る彼の長い指をじーっと見ていたら、なんだかたまらなくなって自分も横に押しかけてしまった。
「危ないからあまり寄ってはダメなのだ」
「はーいッス……あにきっていっぱいナイフ持ってるみたいッスけど、あれ全部こうやって手入れしてるんスか?」
道中の魔物と戦うときなど、アルジェンは雨やドカ雪みたいにナイフを出してはブン投げているのだが、あの軽装のどこからあんなにナイフが出てくるのかは一緒にいる子ネコにもよくわからない。
「ああ、鋭利な切っ先で持ち主を助けてくれる武器も、こうしてたまに整えてやらないと助けてくれなくなるからな」
意図したものか、それとも相手に接する態度がそのまま出ているのか、アルジェンの教えは子ネコにもわかりやすい。
ばあちゃんも物知りだったが、あにきもとっても物知りだ。
お兄さんの知恵袋。愛称に合わせてあにきの知恵袋の方がしっくりくるだろうか?
言い聞かせられた通り、アオイは少しだけ距離を置いて、おとなしく手入れの様子を眺めている。
見られて気にするタイプでないのか、アルジェンの動作に不良はない。
むしろ弟分に見られて気合が入っているのか、手つきがちょっと得意げですらある。
お日様の光が窓から入って、青年の銀の髪を照らす。
手元の刃物の切っ先よりキラキラだ、とアオイは思った。
「……よし、これで終わりなのだ」
最後の一本が鞘に収まれば、もう危ないからと兄貴と子ネコの距離を制限するものはない。
「ニャー……あにきー」
甘えっ子スイッチがオンになった。人の理性はどこかに消えて、ネコの欲望だけが残る。
高い位置にある肩に、アオイは自分の頭を寄りかからせた。
「可愛い頑張りでオレを助けてくれる弟分も、構ってやらないと寂しがるからな……よしよし」
少しからかうような優しい口調で、アルジェンはアオイの頭を撫でる。
──ネコミミ族はかつて本当にただのネコであったから、ひなたや人の膝の上などのあたたかいところが大好きなのだ。
俗っぽいことが大好きな研究者はそうも言っていたらしい。
まだまだ幼く、研究者でもないアオイに真実はわからないが。
少なくとも子ネコはあにきに触れられると伝わってくるあたたかな体温が大好きである。
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