「あにき~~!!」
得物のナイフの手入れをしていたら、トテトテトテトテ元気のいい足音が階下から聞こえてきた。
自然と頬が緩んでしまうのに気がつかないままアルジェンが顔を上げると、やはりと言うべきか。
青い髪から覗くネコの耳をピコピコさせて、アオイが目の前に立っていた。
「どうしたのだそれは」
「手が空いていたもので、さっき宿の人のお手伝いしてたらもらったッス」
細い腕に抱えた、丸いオレンジ色の塊。まごうことなきみかんである。
アルジェンが得物を片づけるのを見計らって、アオイもベッドに腰かけた。
「働いて得た対価をあにきに献上しようと思いまして」
「うむ、いい心がけなのだ」
お互いどこまで冗談で言ってるのかわからないやり取りをして、アルジェンはみかんを一つ手に取った。
すると何故か弟分の目が不服そうに細まり、耳としっぽも心なしか下に垂れてしまったので、ああ、と思い直しみかんを戻す。
みかんを返せば、ねじを巻いたら動く仕掛けのようにネコはいそいそと細い指で皮を剥き始めた。
「はい、どうぞあにき」
「ああ」
剥いて出てきた果実のひとかけらを差し出すアオイの指からパクッと一口で受け取ると、甘酸っぱい味がアルジェンの口内に広がる。
正直このやりとりの方が甘酸っぱいというか甘ったるいが、ここには忠実な弟分と可愛がる兄貴分しかいないので、だれもツッコミを入れない。
いつからかどちらともなく始めたこの恥ずかしいやり取りを、彼らは恥ずかしいと思っていないらしい。
流石に店で食うときなどはしていないようだが。
うまいな、とアルジェンが返せば、良かったッス!と照れ笑いを返して、アオイも一房口に入れる。
「お前ネコなのに大丈夫なのか?」
「……? みかんおいしいッスよ?」
「ならいいのだ」
ネコは柑橘系を嫌うと聞いたが、まあ半分人なので大丈夫なのだろう。その割には魚とミルクが大好物ではあるが。マタタビもダメらしいが。
「白い皮むいた方がいいッスかね」
「白い皮には栄養があるから剥かないのが正解なのだ」
「流石あにき物知りッス!」
いちいち賞賛されながら甘酸っぱいみかんの一房を差し出されると、王様にでもなった気分になる。
口に入れるたび微笑まれるのも目に楽しい。
何故か顔を覗きこむだけで照れたようにしっぽと耳を動かす様子も微笑ましい。
ああ、なんだか。
とてもいい気分だ。
「ふにゃー……あにき?」
「はっ」
気がついたら弟分が腕の中にいた。いや違う、自分がその小柄な体を引き寄せたのだ。
急に引き寄せたせいで、食べ終わったみかんの皮が床に落ちている。
拾わなくてはいけない。それは理解している、が。
「……寒かろうと思ってな」
「そ、そうッスね! ……暖炉あったかいッスけど、ちょっと寒い、かも」
大人しく身を寄せてきたアオイの髪を梳いてやりながら。
拾うのは後でいいかと、示しのつかない怠惰に身を任せた。
得物のナイフの手入れをしていたら、トテトテトテトテ元気のいい足音が階下から聞こえてきた。
自然と頬が緩んでしまうのに気がつかないままアルジェンが顔を上げると、やはりと言うべきか。
青い髪から覗くネコの耳をピコピコさせて、アオイが目の前に立っていた。
「どうしたのだそれは」
「手が空いていたもので、さっき宿の人のお手伝いしてたらもらったッス」
細い腕に抱えた、丸いオレンジ色の塊。まごうことなきみかんである。
アルジェンが得物を片づけるのを見計らって、アオイもベッドに腰かけた。
「働いて得た対価をあにきに献上しようと思いまして」
「うむ、いい心がけなのだ」
お互いどこまで冗談で言ってるのかわからないやり取りをして、アルジェンはみかんを一つ手に取った。
すると何故か弟分の目が不服そうに細まり、耳としっぽも心なしか下に垂れてしまったので、ああ、と思い直しみかんを戻す。
みかんを返せば、ねじを巻いたら動く仕掛けのようにネコはいそいそと細い指で皮を剥き始めた。
「はい、どうぞあにき」
「ああ」
剥いて出てきた果実のひとかけらを差し出すアオイの指からパクッと一口で受け取ると、甘酸っぱい味がアルジェンの口内に広がる。
正直このやりとりの方が甘酸っぱいというか甘ったるいが、ここには忠実な弟分と可愛がる兄貴分しかいないので、だれもツッコミを入れない。
いつからかどちらともなく始めたこの恥ずかしいやり取りを、彼らは恥ずかしいと思っていないらしい。
流石に店で食うときなどはしていないようだが。
うまいな、とアルジェンが返せば、良かったッス!と照れ笑いを返して、アオイも一房口に入れる。
「お前ネコなのに大丈夫なのか?」
「……? みかんおいしいッスよ?」
「ならいいのだ」
ネコは柑橘系を嫌うと聞いたが、まあ半分人なので大丈夫なのだろう。その割には魚とミルクが大好物ではあるが。マタタビもダメらしいが。
「白い皮むいた方がいいッスかね」
「白い皮には栄養があるから剥かないのが正解なのだ」
「流石あにき物知りッス!」
いちいち賞賛されながら甘酸っぱいみかんの一房を差し出されると、王様にでもなった気分になる。
口に入れるたび微笑まれるのも目に楽しい。
何故か顔を覗きこむだけで照れたようにしっぽと耳を動かす様子も微笑ましい。
ああ、なんだか。
とてもいい気分だ。
「ふにゃー……あにき?」
「はっ」
気がついたら弟分が腕の中にいた。いや違う、自分がその小柄な体を引き寄せたのだ。
急に引き寄せたせいで、食べ終わったみかんの皮が床に落ちている。
拾わなくてはいけない。それは理解している、が。
「……寒かろうと思ってな」
「そ、そうッスね! ……暖炉あったかいッスけど、ちょっと寒い、かも」
大人しく身を寄せてきたアオイの髪を梳いてやりながら。
拾うのは後でいいかと、示しのつかない怠惰に身を任せた。
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