今朝の気温と来たら低くて寒くて、正直布団から出たくないくらいだった。アオイは半分ネコなので、なるべくなら温かいところでじっとしていたいような本能がある。
そうは言っても、一緒の寝台寝ていたアルジェンあにきが起きて布団から這い出せば、アオイとて起きずにはいられなくなるのだが。
弟分として、あにきが起きたら自分も後に続かなくてはならないのだ──寒くて動けないなんて言ったらものすごく心配されてしまいそうというのもあるが。
とはいえ今日は特にどこかへお宝探索に行くというわけではないようである。理由を尋ねれば、天気が後から崩れそうなのだという至極もっともな答えが返ってきた。
だから今日は必要なものを買い足して、宿で英気を養うらしい。
もちろん買い出しには弟分もお供する。軒先に並ぶ果物をじーっと見比べてどれが一番おいしいか悩んだり、探索でみつけたお宝を売りに行ったり。
灰色雲に埋まった空の下、街を探索する銀髪の青年は、寒がりネコには優雅に見えた。
「あにき、雪国の精霊様みたいッス」
「な、何を言うのだいきなり」
「寒い中スタスタ迷いなく歩いててカッコいいなーって思ったッス」
「寒いか?」
「暖炉大好きニャンコロなもので、冬の寒さはちょっと堪えるかもッス」
「……そうか、気づかなかったな」
「あにきと一緒ならへっちゃらッス」
「まあ買い出しも終わったし、特に用事もない。早く宿に戻るのだ」
大きな手がアオイの冷えた手を包み込む。護るような手はしかし、子ネコの手と同じく冷たい。それに引かれるようにして、また歩き出した。
大の大人に引っ張られるような形なのに、歩くのがきつくない。アルジェンがアオイに歩幅を合わせているのだ。
年も経験も差があるからしかたないけれど、アオイにはそれが少し申し訳なく思えてしまう。
「……あにき?」
緩やかな歩みがふと止まった。
歩みを止めた青年の視線を追えば、小さな花屋が店を構えていた。
なんてことない花屋の、なんてことない軒先に置かれた小さな植木鉢──。そこにアルジェンの目は釘付けになっている。
「こんなところでこの花を見かけるとは」
しゃがみこみ、愛でるようにその花を観察し始めたので、自然と手を繋いでいる子ネコも低姿勢になった。
可愛い小さな桃色の花。アオイには見覚えのないものだ。
「珍しい花なんスか?」
「ああ、年中暑くて乾燥しているようなところに咲く花で──こんな気候で綺麗に咲くはずもないのだが。何か土に魔法で細工しているようだな」
「花にも詳しいんッスねあにき! すげーッス」
「……別に詳しいわけじゃないのだ。故郷によく咲いてたから覚えていただけで」
「ニャー……そうなんスか」
雪国の精霊様みたいなあにきの生まれが年中暑いところだというのは少し意外だったけれど、深く尋ねるのはいけない気がして、半端な返事になってしまう。
「雪国の精霊様じゃなくてガッカリしたか?」
「そんなことないッスけど、でも……暖かいところ出身なのにボクみたいに寒がりじゃないんスね」
アオイに微笑む表情は見慣れた優しいものだったけれど、どことなく自虐的なものを感じてしまい、繋がれたままの手を強く握り返した。
「そうだな、ここより故郷の方がずっと暑い土地だったが……不思議と故郷の方が寒かった気がするのだ」
「……今も、寒いッスか?」
「いや」
握った手が強く握り返された。
「今はそうでもないな」
もう一度向けられた微笑みは今度こそ幸福に満ち溢れていて、アオイはホッとする。
帰るか、という青年の言葉に頷き花屋を後にする。
二人の手は、もう冷たくなんてなかった。
そうは言っても、一緒の寝台寝ていたアルジェンあにきが起きて布団から這い出せば、アオイとて起きずにはいられなくなるのだが。
弟分として、あにきが起きたら自分も後に続かなくてはならないのだ──寒くて動けないなんて言ったらものすごく心配されてしまいそうというのもあるが。
とはいえ今日は特にどこかへお宝探索に行くというわけではないようである。理由を尋ねれば、天気が後から崩れそうなのだという至極もっともな答えが返ってきた。
だから今日は必要なものを買い足して、宿で英気を養うらしい。
もちろん買い出しには弟分もお供する。軒先に並ぶ果物をじーっと見比べてどれが一番おいしいか悩んだり、探索でみつけたお宝を売りに行ったり。
灰色雲に埋まった空の下、街を探索する銀髪の青年は、寒がりネコには優雅に見えた。
「あにき、雪国の精霊様みたいッス」
「な、何を言うのだいきなり」
「寒い中スタスタ迷いなく歩いててカッコいいなーって思ったッス」
「寒いか?」
「暖炉大好きニャンコロなもので、冬の寒さはちょっと堪えるかもッス」
「……そうか、気づかなかったな」
「あにきと一緒ならへっちゃらッス」
「まあ買い出しも終わったし、特に用事もない。早く宿に戻るのだ」
大きな手がアオイの冷えた手を包み込む。護るような手はしかし、子ネコの手と同じく冷たい。それに引かれるようにして、また歩き出した。
大の大人に引っ張られるような形なのに、歩くのがきつくない。アルジェンがアオイに歩幅を合わせているのだ。
年も経験も差があるからしかたないけれど、アオイにはそれが少し申し訳なく思えてしまう。
「……あにき?」
緩やかな歩みがふと止まった。
歩みを止めた青年の視線を追えば、小さな花屋が店を構えていた。
なんてことない花屋の、なんてことない軒先に置かれた小さな植木鉢──。そこにアルジェンの目は釘付けになっている。
「こんなところでこの花を見かけるとは」
しゃがみこみ、愛でるようにその花を観察し始めたので、自然と手を繋いでいる子ネコも低姿勢になった。
可愛い小さな桃色の花。アオイには見覚えのないものだ。
「珍しい花なんスか?」
「ああ、年中暑くて乾燥しているようなところに咲く花で──こんな気候で綺麗に咲くはずもないのだが。何か土に魔法で細工しているようだな」
「花にも詳しいんッスねあにき! すげーッス」
「……別に詳しいわけじゃないのだ。故郷によく咲いてたから覚えていただけで」
「ニャー……そうなんスか」
雪国の精霊様みたいなあにきの生まれが年中暑いところだというのは少し意外だったけれど、深く尋ねるのはいけない気がして、半端な返事になってしまう。
「雪国の精霊様じゃなくてガッカリしたか?」
「そんなことないッスけど、でも……暖かいところ出身なのにボクみたいに寒がりじゃないんスね」
アオイに微笑む表情は見慣れた優しいものだったけれど、どことなく自虐的なものを感じてしまい、繋がれたままの手を強く握り返した。
「そうだな、ここより故郷の方がずっと暑い土地だったが……不思議と故郷の方が寒かった気がするのだ」
「……今も、寒いッスか?」
「いや」
握った手が強く握り返された。
「今はそうでもないな」
もう一度向けられた微笑みは今度こそ幸福に満ち溢れていて、アオイはホッとする。
帰るか、という青年の言葉に頷き花屋を後にする。
二人の手は、もう冷たくなんてなかった。
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