どれぐらい寝てしまっていたのだろう。
 ぼくが起きたら家はボロボロで上は青天井で、真っ青なキャンバスに真っ白な雲が流れていた。差す日光に、良い天気だと思う。
 家の内壁に絡まった植物の蔓たちも気持ちが良さそうだ。
 ハートの形の葉っぱが、吹き抜けの天上から、割れた窓から入る風に揺れて気持ちが良さそう。
 穴の開いた壁から自分の部屋を出て、かろうじて残っていた家のドアを開けて、外に出た。
 出た瞬間、ドアの錆び錆びの蝶番が限界を迎えて、ボキッと折れてズドンと前に倒れた。
 ぼくはただの大きな板切れになったドアを踏んで、外に出る。

 村の中は人の気配もなく、残った建物の残骸も草や蔓に覆われて、その上をリスが駆けたり、休んだりしていた。
 その癖、近所のおばさんが、取れ過ぎた野菜を置いてご自由にお取りくださいなんてやってた台車は、
 結構形がそのまんま残っていたりして、なんだかちゃんちゃらおかしい。
 当然その上に昔置かれていたトマトやらニンジンやらキャベツは置いてないわけだけど、まあいいや。
 タダより高いものはないって言うものね。

 デコボコ道をすたすた歩いて、いつもの場所へ向かう。
 おてんとさんがちょうど真ん中くらいに来る昼まっさかりの、いつもの時間。
 寄せては返す、波の音。硬く踏みしめていた土が白砂に変わる。
 使われなくなった海の小屋。そこにキミはいた。色素の薄い生前の姿を反映したような、白い骸骨となって。

 君はぼくが来なくても、ずっとここで待っていてくれたんだね。
 冷たいような、とうになくなった体温を感じるような、どちらとも言えない頭蓋を持ち上げて、ぼくは抱きしめる。
 物言わない、ぬくもりもない生き物の成れの果てに体温をわけてあっためているうちに、
 ほったらかしにされていた僕の感情がやっとぼくに追いついて、ツウッと涙がこぼれた。

 頭蓋に涙が落ちた瞬間、キミは骸から抜け出て来て、ぼくの目元をぬぐって見せる。
 けれどもキミはもう実体が残ってないものだから、そんなささいな事すら出来やしない。

 あれ? あれー? と困ったように何度も何度も出来ない動作を繰り返す君の様子が全然変わってないものだから、
 ぼくはそんな彼女を落ち着かせるため、いつものように笑ってみせた。





 第151回 二代目フリーワンライ企画より
 どれぐらい寝てしまっていたのだろう
 いつもの時間、いつもの場所
 ほったらかしの感情
 タダより高いものはなし
 でこぼこ
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