いい旅日和だった。真っ青な空にフワフワ雲が漂って。
 よく人や馬車が通るルートなせいか、チョコチョコとさみどりが足元から飛び出しているばかりで邪魔な草もあまり生えていない。
 左右にはいくつもの木々が広がっているが、まあこれは森なのだからしょうがない。
 ピッピピョロロロロロロクックドゥルルルルなどと謎の音が木から聞こえてくる。鳥の声だ。
 
「ニャッゴゴロゴロゴロ」
「そしてこれはネコの鳴き声だ」
「?」
「にゃんでもないのだ」

 鳴き声が感染ったのも含めて誤魔化すため、横を歩くアオイの頭をくしゃくしゃ撫でてやる。
 嬉しいのか、ピクピクネコミミが動く。
 そうしてじゃれていると、枝葉の間からヒラリと一羽、飛び出して来た。
 今日分の夕日から、こっそり切り取って来たような赤。

「おおキレイだな」
「捕りたいッス!」

 どこから取り出したのか、サッと虫取り網を構えるアオイ。
 
「採ってどうするのだ」
「わからにゃい……食うのかもしれにゃい……捕らにゃいといけにゃい気がするッス」

 ネコは飼われているネコでも狩猟本能が残っていて、その辺の鳥などを捕まえてくることがあるというが。
 耳としっぽ以外、ほとんど人間と同じ姿をしている弟分にもちょくちょくネコらしさが残っている。
 赤い鳥が空の向こうに消えると、今度は丸々太ったニワトリがコケッコケッ転がり出てきた。

「捕りたい!!!」
「アレはちょっとわかるのだ」
「コケ――ッ!?」

 先ほどよりも本気の気配を見せるネコと兄貴分に不穏を感じたニワトリも、火事場のバカ力を使ってバタバタ飛びながら逃げていく。
 火事場のニワトリって美味そうな気配だな……とアルジェンが考えていると、また一羽、哀れな批評会に矯正参加させられる鳥が緑の奥からやってきた。
 柔らかい木の若葉の影から飛び出して来た鳥の色は──空の青。

「ものすごく欲しい!!!!」

 しかしアオイがブンブン虫取り網を素振りしている間に、青い鳥はすぐに空に混ざって見えなくなってしまった。
 残念そうに耳をしょんぼり垂らすネコの耳をつっついて、アルジェンは微笑む。

「どうした、美味そうなニワトリより反応が良かったじゃないか」
「だって青い鳥ッスよ! 幸運ッスよ!! あにきにプレゼントしてあにきに幸運が訪れるようにするッス!! ついでにこの沸き上がる本能を満たすッス!」
「うーむ」

 すっかり祖先の血を煮えたぎらせてしまったらしい子ネコを落ちつけるように抱き上げて、アルジェンは言った。

「鳥はいらんのだ。オレにはネコがいるからな。真っ青な、オレに幸福をもたらした幸せの青いネコが」
「ニャー……それずるいッス」

 ネコは降参したように虫取り網を取り落としてしまった。狩猟本能がなりを潜めたらしい。