子連れの宿泊客向けのものだろうか、今ナランハがいる宿屋の庭にはちょっとした遊具のある広場ががある。そこの砂場にネコが一匹。

「あっニャランハさんだこんちは!」
「おう」

 ネコミミ族特有の「な」が「にゃ」ににゃまりがちな発音を聞きながら、砂場ネコと化したアオイの横にしゃがむ。

 宿の主人の気遣いを思うと申し訳ないが、これといった特産品もない、山奥の村にある宿に泊まる者はそういない。せいぜいナランハのような傭兵や商人などの旅人、外で他愛もない遊びを楽しむことなどとうに卒業した大人ばかりだ。子連れなどそういない。広場にいるのも、ナランハの他にはにゃんころ小僧が一匹いるばかりである。

「こんなところでガキ1人で遊んでたのか」
「あにきのお帰りが遅いので外で待っていたッス」
「忠犬だな」
「ネコッスけどね」

 ネコミミをピクピクさせながらアオイがつけくわえる。突っかかるわけではないがそれなりに種族のプライドがあるらしい。

 砂場には砂場を満喫した後があった。定番の砂山(トンネル開通済)、泥の川(ネコが好む魚はもちろんいない)。兄貴分にべったりな割に一人遊びも得意らしい。元よりネコは、犬よりは気ままだ。なつっこい性格とは別の、種族特有の性質というものはアオイにも根付いているのだろう。

「あにき大丈夫かなあ」
「ただの買い物だろ」
「バナナの皮で滑ってころんでお豆腐の角で頭をぶつけて倒れていにゃいかしら。心配ッス」
「ありえねえ……とも言い切れねえ……」

 忠猫が言うほどでもないが、アルジェンはドジだ。転んで気絶くらいはしているかもしれない。

「ソワソワニャーニャー」
「ガキがソワソワしたところで始まらねえよ。付き合うからニャンコロらしく遊んでろ」
「わーいありがとうッス、ナランハさん」
「今度はキチンと言えたな」
「にゃんのことッスか?」
「……で、次は何を作るんだ」
「お城を作るッス!偉大なるあにきに相応しき大きな大きな住まいッス!」

 というわけでニャーニャー心配したりああでもないこうでもないしながら、にゃんこと剣士で城を立てた。

「ただいまアイラブラザーにゃんにゃんころりん」
「ニャー!あにきだ」
「バーゲンをやってたせいでついあれこれ買って遅くなったのだ」

 怪しげな言語を駆使しながら、ネコのあにきは帰宅した。いつもちょっと離れていただけで熱くるしい包容をかわす兄弟分達は、今日に限ってネコが後ずさりしている。

「ダメッスあにき……ボク、汚れちゃったッス……」
「そんな事はない!いつだってアオイはキラキラ輝いて見えるのだ!」
「いいえ、今のボクはあにきの膝の上でゴロゴロするのにふさわしくないほど汚れてしまったッス……」
「主に泥でな」

 流石のナランハもバカバカしさにツッコミを入れずにいられなかったが、結局アルジェンに捕まってしっぽをモフられ、泥を払われていた。

「こんなになるまで何をしていたのだ」
「あにきと住む家の予定モデルとしてすにゃのお城をナランハさんと制作を」
「そうかー、そこのミドのオマケキングは好きなだけこき使っていいぞ~」
「好きなだけ殴ってやろうか?」

 言われっぱなしも腹が立つので一応言い返したが、弟分とじゃれ合いながらヘラヘラ笑う顔を見ていると怒る気も失せる。にゃんにゃんキャッキャしている二人から視線を逸らし、ネコと作成した砂の城を眺めた。

 デカい城のてっぺんには木の枝と葉っぱで作った旗が刺さっていて、旗の下にある城の玉座に座る、ネコバカの王様はそばに置く弟分にはとても優しいのだろう。ならばそれでいい。