「……うーむ」

 こちらに触れていた手と唇が離れるなりアルジェンが唸ってしまったので、アオイは大いに慌てた。

「どうしたんスあにき?も、もしかしてボクとのチュー変な味した?」
「いいや」
「でもボク、ネコだからキスの味もネコくさいかも」
「仕草はネコだな」

 触れ合った余韻を楽しむように、アルジェンの指先が弟分のネコミミの後ろを掻く。構われてニャウニャウ言うネコを更に構いながらニコニコ眺める青年という構図を保ったまましばし経ってしまった。

「ニャッ!あにきのテクニシャンな指先に全てごまかされるとこだったッス!」
「ごまかしてなどない!弟分ネコが大好きだからじゃらしたくなっただけだ!」
「ニャー……」

 ネコ轟沈。抵抗する力がなくなったのをいいことに頭をよしよしされる。

「単に髪が邪魔だから切りたくなっただけなのだ」
「普段お邪魔そうには見えないッスけど」
「いやこうやって身体を下げてアオイにキスするとき邪魔で……」

 実演しようとまた顔を近づけてきたせいで、アオイは思わずソファー代わりに一緒に腰掛けているベッドの上で後ずさりしてしまった。逃げるネコ。

「なぜ逃げる」
「あらためて見るとあにきイケメン過ぎて照れる」
「さっきもチューしたのだ!」
「照れるものは照れるッスー」

 キャーキャーニャーニャー騒いで跳ねて、ネコは狭い寝台を逃げ回ったが、ムキになったアルジェンに捕まってしまった。仰向けに寝転がった状態で腕を押さえつけられた姿勢。

「これはチューよりエッチなことされる体勢!」
「するか!……い、今はな……」

 とても意味深な事を言った照れ顔が近づく。背中にやわらかいシーツ。口に別のやわらかさ。

 バササッと銀髪がアオイの顔を覆う。

「やっぱり邪魔なのだ!」
「でもボクあにきの髪にじゃれじゃれするの好きッスよ」

 ネコが楽しそうに銀髪を摘まんで言うので、この話はずっと保留になった。