清々しい晴れの青と裏腹に上空の風は激しいのだろうか、街を流れる雲の速度が速い。パタパタと走るネコミミの少年は、そんな白い雲と追いかけっこをしているようだった。駆けて流れる肩までの青い髪は、空に張り付く雲をこちらにおいでと誘うようになびき続けている。が、少年も頭上の雲も、お互い相手に目もくれず、ひたすら進んでいるだけだ。

 アオイの抱えた紙袋には、おつかいを頼まれた薬やら武器の手入れ用具やらがぎっしり詰まっている。ネコとしてのプライドをかけ、これを転ばずじゃれつかず。遅くなってあにきが心配しないよう、
迅速に宿の部屋まで運ばねばならない。しばらく滞在しているうちに顔なじみになった宿のちょっとふっくらとしたおかみさんのいる受け付けを耳パス(耳がネコのネコミミ族は、ちょっぴり珍しい種属なもので)で通り抜け、滞在してるドアの前に立ったところで深呼吸。

 ──今日こそは、あの手に負けぬよう。

 ドアを開ける。テーブルに着いて獲物のナイフの手入れをしていたあにきのアルジェンが、長い髪の毛をかきあげかきあげ、アオイのいるドアの方に金色の目を向ける。と。

「おお~アオイ、早かったな~おつかいご苦労なのだ。おつりで好きなおやつは買って来たか?」
「はいッス! あにきと一緒に食べられそうな魚せんべいが袋で売ってたので確保して来たッス」
「まっすぐ帰って来て、二人分の食料をぬかりなく手に入れるとは……アオイは良く出来た弟分なのだ~」

 手入れの手を止めて、ジッと鋭い切っ先を睨んでいた鋭い金色は、ゆるくホットケーキに乗せたバターのようにとろける。大きな、冒険で何度も擦り切れては再生し、硬くなった皮膚に覆われた手がアオイの手に乗せられる。

「ふにゃ~~ん♪♪♪」

 髪をくしゃくしゃに撫でられ、満足げなネコ全開にゴロゴロ言いながら、アオイは。ああ今度もダメだった。と思った。どうもあにきになでなでされるとネコミミ人間どころかネコ丸出しになり過ぎる気がするので、人間の部分の尊厳を捨てないようにとがんばっているのだが。無理だ。

「うりうり、ゴロゴロ~」
「ごろにゃ~ん♪」

 ほっぺを押されて喉を撫でられじゃらされてしまう。ああもういい。ボクはただの一介のネコとなる。いいやネコだし。猫でゴメン、吾輩は猫である、長靴をはいた猫。ボクはネコ。抗えぬネコ。いずれ嫁にも貰われる。