月明かりの下でだけそれは咲く。
 ドレスのすそのように細やかで広く大きな花が開く時、キミは生まれる。
 花弁の上に立ち、花とお揃いのドレスの端と端を摘まんで、おしゃまな女の子のようにお辞儀して地面に降り立つ。
 そうすると君は儀式を終えたように立派なレディになっているんだ。
 こちらへおいでと言うように両腕を広げる君を抱きしめてくるくると周りながら、自然と二人きりだけのダンスが始まる。
 森の中、木漏れ日の代わりに月の光が落ちる夜、かすかに開いた土地が文字通り踊り場となる。
 夜の中、君は生命の匂いがする。甘い花の香りに紛れて、ダンスでかいた汗の香りがする。
 花びらのように柔らかなドレスの下の、細い体にはしっかりと果肉が宿っている。
 君と遊ぶように、木の枝のスキマを通って、月の光が君を照らす。
 君は笑っている。少女のように。花のように。
 僕も武骨な老木のように微笑む。そうすると君はもっと微笑む。
 ざわめく木々が演奏で、時折聞こえる虫の声はコーラスで、遠くで聞こえる獣の鳴き声は嫉妬と羨望だ。
 それらを聞きながら僕たちはステップを踏み、赤い靴を履いた女の子のように踊り続ける。
 やがて星が朝焼けに溶けていき、月がうっすら透ける頃。
 彼女の笑顔が曇る。僕たちをそっと見守っていた、彼女の花が枯れる。
 僕は彼女に微笑む。

「また次の季節、君が咲くころに」

 約束を聞き届けて、彼女は再び微笑み、甘い逢瀬の残り香だけを残して、やって来た太陽の光の中に溶けて行った。
 散った花びらが名残惜し気に僕の周りをひらひらと周り、朝の風に、空に飛ばされていく。
 起き出した虫の気配、鳥の声。動物が草をかきわけ、眠っていた花が起き出す。
 たくさんの生命の気配が溢れる夏、夜の一日だけ、ひっそりと彼女は目覚める。

 何度も星が巡り、太陽が昇るのを見届けて待たなくてはいけないとしても。僕は何度でも何度でも、君と踊りたい。