身内相手にも騒いだが一応雑にブログにもまとめ。なんというか、良い意味で最後まで一組の夫婦(主人公狂四郎とヒロインのユリカ)、個を救う愛のお話でしかなかったなぁと。「大きな世界」より「個人の世界」、「男性向けエロゲとか下品だったり過酷だったり悲惨だったりする少年漫画・ラノベとかに謎に存在する、女子がときめく感じの要素(やけにロマンティックな男女カプや男から女への切ない感情)」が好きな人、つまり私と味覚近い人には面白いと思う。
結構サクッと終わっちゃってビックリだったが、すぐに狂四郎屈指の名作回アルカディア編の結末が浮かんで納得したし、ラストに納得いかない読者のために、おそらく本作に関しては解説をいれる予定もなかったはずの重い口を開いて、あのラストの心境を語った徳弘正也先生の後書きにも全部頷けた。

狂四郎は終始一貫して、ただ愛する妻のユリカに逢いたい、囚われのお姫様を救いたい王子様(徳弘正也先生の言葉を借りればロミオとジュリエット)というだけで、恋に落ちて互いの魂が救われる以上の発展はほぼなく(協力者や親友を個人的に救ったりはしたが)、ハッピーエンドもお姫様奪還までで、世界に影響を与えるような存在じゃない。

本人も散々そこに葛藤してるわけだが、そもそも狂四郎だって生きていくため戦争のためとはいえ大量殺人鬼なわけだし。こんなのはおかしい間違ってる!って革命起こしたり、世界のラスボスを倒す人間じゃないんだよな。

多分構成としては「架空の世界の一般人ドキュメンタリー」に近い。ディストピアだから、主人公で戦闘力もあるからついつい読者はラスボスを倒したり革命を起こしたりを求めてしまうが、それは最初から狂四郎の頭にも、おそらく徳弘正也先生の想定にもない。本人も若くして旦那で、本作もコレ以前もコレ以後も夫婦を描き続けてきた旦那作家の旦那物語なんだと思うな。

少なく見積もっても、アルカディア編を書いた時点で、この結末についての前置きは完了していたといえる。多数の読者が望む革命、ラスボスを倒すエンドにする気なら、アルカディア編もハッピーエンドだったはず。革命起こしたところで人間は変わらないよ、愛は恋に落ちた二人以外を救わないよって感じで終わったから、最終回も個人的なハッピーエンド。革命起こした人々の気持ちまでは嘘ではないし、バベンスキーの言うように彼らも戦争の被害者だからアルカディア編は名作なわけだが……。お見送りに来てくれたおじさんの言葉も重いわけだが……。

アルカディア編がなかったら私も単にあっさり終わっちゃったって思ったと思うが、私はアルカディア編がすごく刺さった側だし、ここで改めて「狂四郎はただ奥さんに逢いたいだけの夫で、世界を変えられるわけじゃないんだな」と再認識したので納得出来た。

いやー本当にアルカディア編は名作やでえ……。最初の山場の面白さもあって、立ちはだかる敵も魅力的な八木編抜いて個人的にぶっちぎりの一位。思ったよりこの話がウケ良くなさそうで、読み込まれてもいなさそうなのが寂しいとこだが……(まあ一番後味悪くて重いエピソードだしな……)私は最終回含めて伝わったからな徳弘正也先生!(あの人ネット見ないっぽいしこの言葉は届かんと思うが……)

「パッと見は男子がワクワクするディストピア革命っぽい気配があるが、その実大筋は、女性にウケそうな架空ディストピアドキュメンタリー的ラブストーリー」なこの構成、パッと見のエログロギャグや重さも含め、自分にとっては全てが愛しいが誰に勧めたら良いのかもわからん。個人的な名作で怪作。

良くも悪くも男子は全員下品で可愛げがある系だし、ユリカの設定も重いし、女子ウケする言うても単に少女漫画好きに勧められないよね。つまり冒頭で言った通りの人向けなんだが。

純粋にこの物語の全てが気に入った読者として、狂四郎達のこの先の人生、物語を自分は観測出来ないのが少し寂しい。この先の物語は一組の夫婦とそれに付き添う犬しか知る事は出来ないのだ……。

ユリカと狂四郎の夫婦愛は言うまでもないが、バベンスキーが最後まで良き友だった事と、白鳥達が最終回に出て来たのがとても嬉しかった。ターちゃんもシェイクアップ乱も読みます!しばらくは過酷な世界を生き延びた一組の夫婦&犬とアルカディア編の余韻に浸ろうと思うけど……。
2024/04/19(金) 08:38 作品感想 PERMALINK COM(0)