アルカディア編、狂四郎全巻読んでしばらく経った後もどうすればよかったのかな……って考えちゃう名作回。



お見送りおじさんが狂四郎達の会話を悪気なく聞いてしまって、信用出来る身内に相談した結果、そいつらが矢面に立つ二人を信用出来なくてあの結末になったわけだが、おじさんが言わなきゃよかったかと言うとそんな簡単な構造の話でもない。

おじさんが盗み聞きしないで現状維持をした場合→「ゲーム」してるやつが飽きたら終わる

おじさんが相談した仲間達が二人を信用すれば良かったじゃないか→そらそうなんだが、村人がM型遺伝子差別、いわゆる魔女狩りの地獄の中
どうにかこれまで生き残って来て、疑心暗鬼だったし差別が彼らの中で根強いのは、村人の集会や床のMのシーンで事前にしっかり描かれている。

また、アルカディア編までに狂四郎を差別しなかった人達はヒロインのユリカを始めとしたオカマ達とかバベンスキーの息子と孫娘みたいに最初から気のいい奴、或いは気持ちの変化に無理がない、同じ境遇の親友である白鳥のような人達に限定されていて、いわゆる異端人。アルカディア編のような、あの世界の一般人が考えを変えるような話はそもそも一度も描いていない(はず)。

だからアルカディア編は読者や狂四郎視点から見て最悪の結末でも、100点じゃなくても、革命起こすしか、あの結末しかなかったんだよな。狂四郎がどんな気持ちで怒りを抑えて二人を一緒に弔ってやれって言ったのか考えると悲しいんだけどさ……。最終回後ここが居場所になれるようなとこだったら良かったんだが、あんな結末になった以上、一度はユリカの為にプライド捨てて我慢しようとした狂四郎も、こんなとこ戻る選択肢ないよね……。首吊り目撃直前の村人の台詞も差別丸出しだし、狂四郎達も吊られるオチしか見えない。ここもまた地獄だっただけという、中立の立場のおじさんの言葉は考えれば考えるほどおもくなる。

女子目線で見るなら八木編、爽やかな友情と愛情と感動なら白鳥編のが良く出来てるのに作中一番後味が悪いアルカディア編がそれらを引き離してベスト一位なのは何故なのか。良いも悪いも一番実直に人間を描いているからなのかな。

最悪の世界に対して、村人が戦車相手に奮起してぶっ殺されながら立ち向かった美しさも、信用出来ない人間をよってたかって吊し上げた汚さも別に両方嘘じゃねーんだよな。人はディストピア圧制にやられるばかりの弱い存在ではないし、かといってそんな世界に影響を受けないほど強くもない(繰り返すが、前述の狂四郎に優しかった人達は、相当な異端)。バベンスキーの彼らもまた戦争の被害者というだけで言葉も、お見送りおじさんの自分を含めた人間の汚さの名語りの締めも両方本当。そういうどうしようもなさが、胸糞なだけではない人の根源的な悲しさに繋がっている。

別にああいうオチだから面白いわけじゃなくて、アルカディア編でも今までの話でも一貫して差別の根強さとか人の汚さ仕方なさがしっかり描かれた上で、決してそれだけではない美しさもあった上で、アレしかないオチだから心に残るんだよね。狂四郎が村人皆殺しにしたくらい内心キレながら二人を気づかってやって、バベンスキーが彼らも被害者だって言って、お見送りおじさんが自分も含めた人間の汚さとそれらが作る地獄を語るから面白くてやるせないんだよね。

やっぱりアルカディア編は名作回。ここにありがちな革命物語を蹴って徳弘正也先生が描きたかったものが詰まってると思うし、それが個人のささやかなハッピーエンドであり、彼らの物語は続くって感じの最終回に繋がる布石にもなってると思う。
2024/04/24(水) 15:14 作品感想 PERMALINK COM(0)