読んでから十年以上経って今更気づいた事があったので書いておく。
この話、なんか珍しくキノがめかし込むというか、男達に助けて貰ったお礼としてもらった指輪をはめて、エルメスに「どう？」って訊ねるくだりがあるんだよな。あまりに淡々としてるというか、エルメスに似合わないって言われてもキノがあっさりしてて、「僕もそう思う、(モドラドのエルメスに乗って)グリップ握る時邪魔かな」とか流すから当時サラッと流しちゃったんだけど。ここのキノの挙動って「女の子」だよね。
んでなんで男装女子、それも普段全然そこら辺のキノの性別を出すような描写がない作品で、この話だけそういう女の色気を彷彿させる描写があるかというと、多分助けた男達が奴隷商人で、女が商品だからで、キノもそうなりうる、餌食の対象って暗喩だよね。この話はキノも武器を捨てる際脱ぐ描写があるし、珍しく「怖かったよ」と漏らすくだりさえある。露骨なエロさはないし、その後のカニバ描写でいろいろ吹き飛んでしまってたが、全年齢で上手い事エロい暗喩というか、女の子の弱さを書いてるなって思う。
「助けられなかったから」と殺した男達からもらった指輪を返して置いていくくだりは、キノの「律義」な側面がよく出てるよな。リアちゃんの時は「もらって売ればいいじゃん」とか思ってたけど。悪人でも善人でもないけどキノの良い人っぽい描写、上手い表現がずっと浮かばなかったけど「律義」なんだな、キノは。自分のせいで死んじゃった初代キノの事も母親に伝えに行くし。(結果はアレだけど)。師匠の教えとかも基本的には守り続けてるし。
多分奴隷商人達はキノが女の子な事に気づいてたのかな……と思う。そういう描写はなかったと思うけど、あの食ってた人間も普段なら普通に売り物なわけだし、多分男装一発で見破るくらいの目利きはあったというか、多分キノが本当に男の子だったらキノを捕まえて売ろうとはしなかった気がするんだよな。いや、男の子でも労働力なりスキモノ変態相手なりで若ければ売れるとは思うけど……。この話はそういうなりふり構わない感じじゃなくて、キノが「女の子」だから書かれてる話かなぁって。
