ひと夏の恋物語、ここに閉幕。




大筋の構成は上手いし良い話だった。七夕伝説の悲劇性をネタにした創作は数あれど、織姫の職業を掘り下げてギャルゲーの個別ルートにちなんだ運命の糸、織物の糸になぞらえて一つの美しい織物に仕立てあげたような創作はコレだけじゃないかな。作中作のリフレインブルー流七夕伝説も最後まで展開が読めなくて面白かったし、そこを最終ルートの二人に繋げたのも良かった。

ただ最終ルートはちょっと色々こんがらがるというか……細部がわかりにくいかなー。深景さんが帰ってこれた理由とか、ループの仕掛けとか。考えるな感じろなのかもしれんが。多分攻略ヒロインもうっすら記憶を持ち越してるっぽい?深景さんの最期や各種思い出も雫ルートとか各キャラルートで違ってるけど、多分この最終ルートが真実で、他のルートは深景さんを忘れるためにやわらかく改変されたifって事で良いのかな?織姫と深景さんの関係もややハッキリしないな……深景さん自身が主人公の運命を紡ぎ直していたって言ってるから、織姫=深景さんでおk?言動的に、運命を紡ぐ力が深景さんにあるんは確実っぽいが。織姫と深景さんは別人かもしれん。ちょっとここら辺はわからなかった。

最終ルートは全体的にちと情報がゴチャついていて説明不足っぽく、最初から最後まで夢中になって真面目に読んでたのだが、それでも正直咀嚼しきれない部分があったのが惜しい。(上記のグダグダ言った解釈で大体合ってる?)

でも良い話だった。ずっと主人公のこと一人の女の事を忘れられない重い男で、一人の女を追い求め続ける主人公の物語だと思っていたが……実際そういう要素もあると思うんだが。この作品が誰の物語か、誰の想いが一番強いかって言ったらやっぱ深景さんの物語で、深景さんの想いのが主人公より強くて優しいと思う。

多分言いたい事は非常にシンプルで、深景さんという一人の女の、海のように広く深く優しい「想い」の話なんだね。最終ルートのエピローグ的にも。

主人公が最後「僕の人生まで背負い込まなくていい」って言ってた通り、多分死んだ恋人である深景さんがずっと、遺していった男である主人公を気にかけ続けてたんだね。だから運命を紡ぐ力を使って、他の女の子と結ばれる道を作ったり、そもそも自分なんかと出会わなかった事にしようとした。

そして自分でそういう風に仕向けたくせに、本当は自分の事を忘れてなんか欲しくなかった。奈緒ルートの手紙でもこぼしてたみたいに。

そんないじらしい深景さんの想いのこもった絵を「預かっていた」雫ちゃんから返してもらって(ここは上手い流れだったなあ)、最終的に主人公はちゃんと思い出すしたどり着く。一つの結末、「大切な人との想い出がどんなに悲しくても、なかった事にするものじゃない」という結論に。

……松永のおにーさんの事好きだったけど、こうして書き綴ってても、やっぱり深景さんの愛のが何枚も上手、何億倍も広くて深いな。自分と出会わなかった事にしようとするほど主人公を想ってて、最後は好きな人が誰かと結ばれて幸せになっても祝福出来るほど、穏やかで純度の高い「想い」の概念になった。

深景さんとの穏やかな結婚生活が見れたのも、主人公が最期冷たくなっていく手を握って、「お別れのキスしながら泣くほど」想ってたのも、亡骸を抱きしめながら涙が枯れるほど泣いたのも良かったけど、深景さんには幸せになってほしかったなあ……。とても綺麗な終わりだったけどね。もう一度逢えたのも、一度消したものを取り戻して自分のところに好きな男が駆けつけてくれたのも深景さんは幸せだったろうしね……。深景さんの澄んだ想い、美しすぎるEDボーカル曲「想い出の海」も相まって、読後感はさわやかなくらいだが、つぐみルート以上に切ない、そしてちょっと細部が難解な話だった。

主人公が最後想い出をこれからも大事にしつ吹っ切る流れも、コレが深景さんの願いだから、ちゃんと好きな人の事を思い出したのだから、切ないけど良かったのだろう。繰り返すブルーな悲しみは、寄せては返す波のように心の中で繰り返す、青い優しい想い出の海に生まれ変わったんだと思う。コレは私のクソポエムではなく、それまでの各ルートエンドロール曲が「リフレインブルー(繰り返す悲しみ)」って名前の曲なのが、最終ルートだけ「想い出の海」という曲に変わるんで、本当にそういうことだと思う。

一冊の小さな本のようにちっぽけで、海のように優しく穏やかで大きな物語だった。振り返ってみれば終始深景という一人の女の物語だった。エロゲじゃないと出来ない構成の話だけど、全体の物語は色んな意味でエロゲらしくない感じ。普通にエロゲとして萌えて楽しかったのは由織さんルートだけだったかな……全ルートいい話で良い出来で好きだが、やっぱり全体的には切ない話。

ED曲想い出の海をエンドレスリピートしながら、深景さんの深い愛に切なさわやか涙を流す気持ち悪いオタクになってる。

深景さん、思ってた以上に魂が美しくいじらしい素敵な女だった……たった一週間しか一緒にいられなかったのに、主人公が忘れられなかったのもわかる。

文章センスも演出も思わずホロリと来るほど切なくて綺麗なゲームだった。雰囲気や空気が好きと言うよりかは、「感性が好き」と表現するのが個人的にしっくりくる。
2023/10/28(土) 21:28 作品感想 PERMALINK COM(0)