読むのだいぶ時間かかった……。


「異邦人」同様、感想が難しいと思った。パンデミックの中を生きる人たちの話……なんだろうけど、カミュって何書いても文章と空気の口当たりが良すぎる。病に苦しむ小さな男の子の「涙と汗に濡れた顔」とかなんかやたらお耽美だし、メインの男達は自分に出来る事を頑張ってて良い人ばかりだし(それはサブキャラ、モブさえも一緒。)カミュはこの、子どもが死ぬシーンで書きながら泣いていたそうだが、作品を読んでいてもうなずける感性だよな。なんかさー、カミュって世界の美しさが大好きな人が無理して世界の黒い、嫌な部分を書いてる感じがすごくする。

まあ私が読みながら思った感覚は当たらずも遠からずって感じで、「世界には常に苦しむ人々がいるが、他方で自然の美がある」、つまり「どんな事があっても世界は美しい」的なものにカミュというのは忠実であろうとしたらしい。だからカミュは「ペスト」みたいなパンデミックを書こうが「異邦人」みたいな破滅を書こうがなんか綺麗になっちゃうんだね。そしてそこがカミュが「なんかテーマに反して読みやすい」部分であり、「なんかよくわからん、難解」と言われる部分なんだろうね。不穏なものがあまり不穏にならないからどう受け止めていいかわかんなくなっちゃうんだろうね。

異邦人はなんかそれっぽい感想なんだかんだと言えたけど、ペストは難しいな。リユーとタルーがよくわかんないけど海に飛び込んで友情感じちゃうとことか、理屈じゃなくいい!って思ったんだけどね。パンデミックとか困難があろうと人々は美しい、世界は美しい、ってそれだけの話なのかもしれない。悪い意味ではなく。終わり方は少し不穏だけど、それってペストに限った事じゃないような気もするし。そういう風に、パンデミックに限らず、明日何が起こるかはわからない的にカミュも書いているような気もするし(勝手にそう思っただけだけど)。

悪い意味でなく、良い意味で終始そんな嫌に揺さぶられることもなく、むしろ雰囲気の良い小説を楽しむように読めてしまったが、それでもリユーの奥さんとタルー・リユーの友情の結末は少し悲しかった。奥さんの知らせ見る前にリユーが奥さんの事思い出す描写があるのがまた……。人の優しい感覚をフッと、自然に出すのがカミュは本当に上手いと思う。感性がすごく澄んでる作家だよね。難しい事考えずこの口当たりの良い文章と空気を楽しむだけでも良いんじゃないかな、ってくらい。
2023/10/31(火) 19:48 作品感想 PERMALINK COM(0)