三日三晩のジョーダンの戦争と愛の物語、ここに完結。武器よさらばのネタバレも含む。
わかっていていても、言っちゃあなんだがあざといとは思っても、マリアと一夜を友にしながら、叶わない共に生きる願いを語り合うジョーダンのくだりは泣きそうになった。ヘミングウェイの感性と文章力にはひれ伏すしかない。
様々な要素が重なり合ってジョーダンの任務も人生も上手くいかない、戦争のこんがらがった事情が、くるくる視点変わるのにグイグイ読める三人称によって上手く表現されてると思う。
武器よさらばのが、悲恋と戦争の影の見える描写がシンプルな構成で描かれていて私好み。でも、後に描かれた、多分一番有名なこの作品の方が、丁寧に書かれた群像劇要素も相まって、人間ドラマとしても戦争文学としても完成度は高いんだろう。
戦争文学としての批評はパッパラパーの専門外なのでぶん投げる。そもそもヘミングウェイ作品は空気と感性が好きで読んでるだけだし。
その上で、雰囲気が好きなのは武器よさらば、こんなオチなのに人の強さと希望を感じたのは誰が為に鐘は鳴るの方かな。
「泣かないで、マリア。マドリードにはいけなくなったが、きみのいくところならどこにでも、おれは一緒にいく。わかるね?」
ジョーダンのこのセリフを読んだ瞬間泣きそうになった。この後同じような言葉で、一緒にいなくても共にいるのだと何度もマリアに言い聞かせ続けるのも涙を誘って来る。上巻だとどこか本気じゃない感じも見えたけど、この瞬間二人は本当の夫婦になったのだろう。
作中でハッキリと戦争批判もある作品で、っていうか現実に即した戦争文学でこんな事言っちゃあ行かんのだろうけど。好きな女と仲間のゲリラ達を逃がして、死にそうな痛みを堪えながら、敵の中尉を討とうとするところで終わるジョーダンの生き様は、タダじゃ死なない人間の強さを感じた。
巻末解説でも言ってる事だが。「武器よさらば」は妻の死を看取り、「誰が為に鐘は鳴る」は妻を逃がして生存させたとこで終わる、対の構図になってるのが面白い。
もっと言うと、「武器よさらば」は戦争から逃げても妻の死からは逃げられなかった話で、「誰が為に鐘は鳴る」は、心のどこかで自分の死を感じ取っていても戦争に立ち向かう事で妻を生き延びさせるという構図になっている。ヘミングウェイなりの戦争への立ち向かい方が、「誰が為に鐘は鳴る」には入っているんだろうな。多分「誰が為に鐘は鳴る」のが、主人公は死ぬけどハッピーエンドなんじゃないかなと思った。本人は満足してるし。