グルグル2後、18歳くらいのゆるいラブラブ&スケベな恋人設定ニケクク。唯一神うんぬんとか入れようと思ったけどググったらややこしそうでボロが出そうだったからやめた。
闇魔法結社には今も縁があって、二つ魔王退治の冒険を終えた今も、時々でいいからまたかみさまになってくれないか、などと頼まれる。時々でもククリがいれば、安定して結社の団員も集められるのだと。
ククリには難しい事はわからないが、おかしな話ではないかと思う。かみさまはそんな出したり引っ込めたりするもんじゃないと思うのだ。と、相変わらずアラハビカの礼拝堂で布教活動に勤しんでは、飽きたらどこへなりともフラッと放浪しているジュジュに訴えたら、
「いいんじゃない? 出したり引っ込めたりのかみさま」
などと、面白半分、クール半分に言われた。
「信仰は自由だし。魔王ギリだって出したり引っ込めたりを繰り返したのちに封印されたんだから、そういうかみさまもアリでしょ」という理屈らしい。ムキになって食い下がれば、面白半分が面白全部という満面の笑みになって、
「クーちゃんのかみさまはいつもそばにいるニケくんだものね」
と、直前のノロケを倍返しされて慌てる羽目になって、またそれをジュジュは楽しそうに眺めるのだ。
〇
「いーじゃん、アルバイトの神様。報酬も悪くないし」
ある日闇魔法結社でいつものように「ククリさま」をするのも飽きて、ニケにここのところの疑問を相談すれば、ジュジュよりも俗にまみれた言葉が返ってきた。確かに退屈である事以外は悪くない。勇者様と一緒じゃなきゃ嫌といえば、闇のおねえさんも承諾してニケ同伴でのアルバイトを許可してくれるし。光の者を結社に入れるなどと! とキャンキャンうるさい総裁犬の意見も握りつぶしてくれる。
「ほっといても三食出るしー、最近はオレも、ククリのついでにニケさまーってちやほやされるしー」
「勇者様ったら」
いつの間にか他の女の子にデレデレする事はなくなったけれど、お調子者であるニケは、おこぼれであれなんであれ、自分を持ち上げられることは悪い気がしないらしい。
なんだかわからない堂から「ククリさまの将来の旦那様堂」と名を変えた部屋のドアをくぐっても、
ここにいるのは変わらないニケである。
「適当に楽しんで、適当にやればいいんだよ。おねえさんもその辺割り切ってるみたいだし」
「うーん」
変わったといえば、こうして自然と寝台へ抱き寄せられるようになった事だろうか。勇者様は昔からちょっとスケベだったけれど、不用意に触れて来たり、冒険中に変な事を仕様としたことは一切なかったから、これは大きな変化なのだと思う。最初は二人して照れまくっていたけれど、いつの間にかそれは、一緒にいる事と同じで、当たり前のものになった。
最初は自分もニケもドキドキしなくなった事に、あたしに飽きたんじゃあ、とか自分が勇者様にドキドキしないなんて、と戸惑ったけれど。穏やかに、愛おしげに触れて名前を呼び続けてくれるニケのおかげで、頭のよくないククリにもそうじゃないと理解出来た。
ドキドキと同じくらい、ただ優しく相手に触れて想う事も大切なのだと、ニケが教えてくれた。
「やっぱり、あたしは勇者様の方がかみさまだと思うの」
退屈を紛らわせるひとときが終わって、ニケの隣に横たわりながらククリはつぶやく。
「何の話だよ」
「ジュジュちゃんも、あたしにとっては勇者様がかみさまなんだって言ってた」
「はあ? ジュジュが? それ認めるのプラトー教的にはアリなのかよ」
おんなじお布団の中だと、ジュジュちゃんの名前を勇者様が呼ぶのモヤモヤするな。と理不尽な考えにふけっていると、彼の手で解かれた長い髪を一束掬われる。
「かみさまみたいな女の子ならもうここにいるじゃんか。少なくとも闇のルンねえさん的にはそうだろ。あとバカ犬」
「でも、あたし」
「オレは闇魔法結社やプラトー教の信じる神様の定義なんかどうでもいいよ。信じてないし。ククリが呼ぶ勇者様。そんだけ!」
双方の信者に怒られそうな事を、闇魔法結社内で堂々と言うニケは、これ以上この論議を重ねるつもりもないらしい。出会った時よりずっとたくましくなった腕の中に閉じ込めて、黙らされてしまった。ククリがこうされて眠るのが好きなんて、とっくに知られてしまっている。
彼女と言うよりは小さい子をあやすみたいに髪を撫でられながら囁かれた言葉は、夢か、現実か。
「ククリは可愛い天使様だからなあ。かみさまなんて偉そうなもんじゃないんだ」
深夜。雲のカーテンが隠しているのか、月の明かりも入らない暗闇の中で、ククリは目を覚ました。何も見えない不安は、眠る前と同じ姿勢で包み込む腕の体温でかき消される。
しばらくそのまま動かず、温められるヒナみたいに体温に浸っていると。誰かが雲のカーテンをパッと開けたのか、薄絹のようにやわらかい月の明かりがククリ達の寝台に落ちる。
ニケの金の髪が途端に目立って、財宝のように輝くものだから。思わずわあっ。と喜んでしまい、それから一人でシーッと、人差し指を立てる。ただいま勇者、お休み中。
神様がいるのなら、やっぱり勇者様じゃないかしら。月のしずく色の髪に触れながらククリは思う。
あたしが勇者様と呼ぶから勇者様は勇者様なのだとしたら。かみさまと呼んだら荘厳な羽根が生えてどこかへ飛んでっちゃうのかな。
「かみさま。あたしを連れ出してくれた、かみさま」
益体もない思いつきは未だに暴走しがちな魔力も誰も相手にしなくて、ククリの勇者様だけが、そこにいた。