これは……
暫定今年読んだ小説ベスト1位でいいかもしれない……。とにかく感性がすばらしい!読んでてなんてことないシーンでも何故か泣けて困った。終始全てが穏やかに綴られているのに泣かせてくる。これは……本当に上手い文章なんだなって感じ。原文も翻訳も。
主人公アンナの感覚はわかる、愛しいと、シンプルにめんどくさい!が半々。
アンナが物静かなおちびさん、って言われて腹が立って、わざとさわがしくバタバタ階段を上がって行ったシーン読んで、表現の難しい、子どもの微妙な感覚の解像度が「ガチ」だなって思ったし、すげぇ上手い文章だな……ってなった。
アマリンボーさんが何気に大好き過ぎて困る。なんとなくこの人好きだな、って思って、初めて「寒いか」ってアンナに訊くところですっかりやられてしまった。不器用な人だけど優しいんだなって思う。後半で見せ場もあるし。ちゃんとラストシーンにも彼らしく出て来て嬉しかった。
劇的に語るのではなく、子どもの失敗も困った気質も含めて、それこそ「輪に入れるように」、穏やかに見守るように綴られていく点など読んでいて感じた良さは挙げきれないのだが。一番描き方として良くて、上手いなぁ。と思ったのは、案外マーニーとアンナのパートが少なくて(全体の三分の一くらい?)、手に取れるように、生き生きと描かれているのは最初の一人でむっつりしているようなアンナパートと、マーニーと別れた後のリンジー一家と仲良くなるパートだという事。
これは狙っての事だと思うんだが。マーニーとの描写と扱われ方だけ、なんだかつかみどころがなくて、読者もアンナもその感覚に戸惑うんだよね。最後まで読んでも、マーニーとの思い出が本当に起こった、不思議なタイムトラベル的作品なのか、アンナが自分の奥底に眠っていた「思い出」を元に作り上げた空想だったのか、どことなく曖昧な感じ。これは子どものイマジナリーフレンド的空想と片づけるのも、本当に起こった事だと言い切るのも、なんだかどっちも野暮な感じがするんだよな……。
何にしても、マーニーとの思い出が本当に起こったにしろ、アンナの奥底の記憶を頼りにした空想だったにしろ、多分救われていたのはマーニーの方で、アンナではないんだよな。もちろんアンナも、マーニーとの交流があったから、周囲に向き合って、微妙な空気だったおばさんの事を受け入れる成長が出来たんだと思うけど。
やわらかい文体で優しく描かれているし、露骨でわかりやすい描写はないけれど。どこかの歯車が少しずつかみ合わなかったようなマーニーの人生は、アレが本当にあった事だと仮定しても、アンナの存在があっても幸せだったと言い切れるようなものではないだろう。実際本文でも、幸せだったと言い切るようには書かれていない。それでもこれは、マーニーがアンナの存在で、ささやかでも救われる話でもあったのかな……。って思った。個人的な感想で、間違っているかもしれないけれど。
しっかし、敢えて最後に持って来たアンナとマーニーのイラストが泣かせる……(作中でもあったシーンだね……)戸部さんの挿絵は人類は衰退しましたから大好きだったが、今回もいい仕事してるなぁ……。表紙も含めてとても素敵な仕事ぶりなので、可能なら私が読んだ角川つばさ文庫版の新訳がいいんじゃないかなと思った。いや、そこまでこだわらなくてもいいから、是非色んな人に読んでほしい名作児童文学だと思うけど。