腐女子の端くれとして、やおいもBLも言葉として定着してなさそうな時代から書いてる作家を一度じっくり読んでみようと思い立って手に取った。


でもこの巻はエッセイか実話を元にしたほぼノンフィクションみたいな私小説しか載ってなかったというオチ。

あては外れちゃったけどほぼエッセイ集としては良かった。流石の美文体と、何より思い出を優しく見つめて大事にしている森茉莉さんの人柄がホロリとさせられるほど幼少の思い出を美しく飾っていると思う。

一番有名だと思う「父の帽子」はくせもなく、ふとした場所から顔を出すのだという父の思い出がほのぼのと書かれていて一番万人受けするかなと思った。ファザコン級のお父さんっ子だったというだけあって、この巻に収録されてる作品の大半で父森鴎外の事が書かれていて、読んでると作者と一緒に森鴎外にメロメロになりそう。

でも盲目的な父の信者って事はなくて、嫁姑問題を誇張した鴎外の「半日」なんかは「誇張が酷いし大して面白くない(要約)」とか言ってるし、お父さんだけでなくお母さんも大好きで、穏やかだった母の思い出を自分の子供に語る話はちょっと泣きそうになった。自分が夫と外国に行ってる間に鴎外は亡くなったそうだけど、その時二人きりで、鴎外の好物だった季節の果物なんかと一緒に静かに過ごした父と母の夫婦の姿を語る話は、多分後で母親から聞いたりとかはしたんだと思うけど、見て書いたみたいに鮮明にすごく美しく書かれているんだよね……。お父さんっ子ってだけでなく幼少の頃の思い出も母もまるごと愛してるような感じでイヤミがない。

父鴎外を愛しながらも、「気に入らない人には偉そうに見えて、好きな人はすごく好き」って客観的な目線があって、ぼんやりファザコンとBLの人って印象だったのが、このクソ分厚い本を読んで解像度上がった。ついでに森鴎外の印象も変わった。娘に押し花を手紙で送るって流石の洋風かぶれというかド天然キザロマンティストよなあ。このエピソードと森茉莉の旦那を「おまりの王子様」と評した話だけでも、好きな人は好きだけど嫌いな人は嫌い、って娘の評価に頷ける。

三島由紀夫のファッションボロッカスに批評する話は噴いたww三島由紀夫もコレにはキレたと巻末解説に書いてあったけどそらそうよw誰でもキレるわこんなん。

最初はエッセイ系ばかりで小説は書けなかったらしい作者が、実話を元に私小説を書き上げたりして、後にBL的な方向に行ったと思うと、このエッセイと私小説のみの巻は作者の積み重ねのターンに触れるものして読んで良かったのかもしれない(もう小説書き始めた頃のエッセイなんかも収録されてるけども)

面白かったけどすごく分厚くて次の巻をすぐ手に取る気にはなれない……また今度続きの巻を読みたいと思う。そして今度こそ大先輩のBLに触れたい。
2023/07/11(火) 16:55 作品感想 PERMALINK COM(0)