有名な同性愛小説。何故か作者をヘッセと思い込んでたけど、トオマス・マンだし全然違った(なんか同性愛くさいというとこしか共通項はないよな)でも一応二人ともドイツの作家か。

多分原文も翻訳も上手い文章だとは思うんだけど、遠まわしなまわりくどい言い回しだらけでちょっと読みづらい。文章自体は文庫本にみっちりだけど、ページ数自体は短めで、(厚みが)薄めの本。内容は……評価が難しいところだなぁ。同性愛テーマとは聞いてたし、そういう部分も確かにあるんだろうけど、子どもの頃から仲の良い同性の友達もなく、娘が一人いるだけで息子もいなかった、っていう主人公・アッシェンバッハの過去も見逃せない要素なのかなとは思った。同性の友達や息子が欲しかった、みたいな願望もタッジオに対してあったのかなと思う。

身もふたもない事を言うと、ぼっちジジイがひたすら美少年に対して色々と拗らせているだけのお話で、それを文章力で最後まで読ませている感じがしなくもない。芸術家の破滅的な要素を書いたとか、なんか色んな要素があるんだろうけど、「孤独でだまりがちな者のする観察や、出会う人々は、社交的な者のそれらよりももうろうとしていると同時に痛切(中略)ひとつのまなざし、ひとつの笑い、ひとつの意見交換で片づけてしまえるものを引きずりがち(要約)」みたいなくだりが、ぼっちあるあるを感じて一番印象的だったかも。この後の「」孤独は独創的なものを、思い切って美しい、あやしいほど美しいものを、詩というものを成熟させる」という辺りは、文章系創作者をよく表しているなぁと感じた。

私が思っていたよりは、アッシェンバッハとタッジオは通じ合っていた気がしなくもない。(一応、旅行中によく見かけるじいさん程度にはタッジオにも認識されていたように思う)創作者の緩やかな破滅の話、なのかなぁ。同性愛描写はそんなに濃くはないから耐性のない人も多分平気じゃないかな。多分。
2023/07/16(日) 19:30 作品感想 PERMALINK COM(0)