宮カスの手紙のくだりがウザい。


なーにが「御免し被下度(おんゆるしくだされたく)、御免し被下度、御免し被下度候。」だ。押し付けがましい! その前に「夫婦の愛情と申候ものは、十年が間に一度も起り申さず」とか書いてあるのもクソ。挙げ句の果てに「今また唯継に不貞なりと仰せられ候えども、その甫の不実を唯今思知り候ほどの愚なる私が、何とて後の不良やら何やら弁え申すべきや」とかほざいてるのもクソ。宮カスのこういう自分を正当化するとこが大嫌いだわ。

それでも巻末解説の人いわく宮カスのが「遥かに決断あり、度胸もすわっているし、先を見通す知恵もある」らしい。ハァ?なんかもうこの後の解説は妄想も入っててまともに読むのも嫌。コレに関してはあんたが「左翼くずれの批評家片岡良一」「とぼけた批評」とか評した「彼女はまるで自己が無かった。周囲の状況につれて浮動するだけで自己の行動に自ら責任を負う自主性が無かった。だから彼女は僅かに動かされたことによって容易に貫一から離れたとともに、嫁した富山にも自ら知らずに不貞を働いている」って意見のが合ってると思うよ。

逆にこの解説の人、貫一は嫌いで「男の自尊心にこだわりつづけ、意地を張っているつまらない男」「光枝とかいう美人高利貸しに好かれてるならいっそコイツを舐めしゃぶって高利貸しの資本拡大しろよ」とかボロカスなのが面白い。私も読むに連れてこういう女引きずるタイプの男大好物なはずなのに、貫一にウンザリしちゃったレベルだしな……。

多分宮は女読者に嫌われやすく、貫一は男読者に嫌われやすいタイプだよね。逆に両方、異性の読者からはモテる。貫一ももう嫌いだけど、私から見ると貫一のがマシだし。

しっかしこの解説の人、自信たっぷりに自分の意見は正しい!当時の意見はボロッカス!ってやってる割に、妄想込みでものを語っているように思うし、左翼くずれの批評家なんて言い方したり、貫一をさっぱり理解出来ないタイプっぽかったりで私の嫌いなタイプの男性だなぁ。私も左っていうか思想が極端に偏ってそうな人自体は嫌いだし選挙前になると最寄り駅に待ち伏せしてる人らにはうんざりだが、単純に物言いが嫌な感じする文章だと思う。有名作の解説ってこういう不愉快で見当違いなのも多いよなぁ。基本予備知識なしで読むから、解説の補足とかは読みたい方だし、翻訳者解説とかは好きなんだけど。そもそもこういう解説は読まねー派の人のが賢い気がして来た。

話がそれたけど、内容は特に言うことない。宮カスの手紙読んで落ち込んだ貫一が、助けたカップルの女子のお静に癒やされ萌えしてるだけだし。この後また宮カスのターン入るけどノーコメント。連載を続けるため、どうも続金色夜叉は夢オチになったらしいんだが、明らかに終わるタイミング間違えたよな。処女厨の拗らせ童貞貫一と、自分勝手な主体性のない宮カス、二人が感情を昇華するには続金色夜叉のラスト以外になかった。

なんか別作者の続編もあるらしいんだが……もうお腹いっぱいだしいいや。

しかし文豪の文章力すげぇな……と思った。多分私この作品も作者も大嫌いな方だと思うんだが、面白いは面白かったし、創作者の技術っていうのは、伝えたいことを伝えやすくするためだけでなく、自分と合わない読者を味方につける防衛法としても機能するんだなと思った。

でもやっぱ私この作品嫌い。やっぱさあ、同じ落ち込むにしても心動かされるにしても、もっと美しい何かで心動かされたいよ……。瞬間風速的に面白いけど、読み終わったあと美しさや切なさ、楽しさやるせなさ、とにかく良い感情が何も残らなかった。面白いけど大嫌い。女引きずる男で嫌い(というかウンザリした?)になったのも初めてかもしれん。人間の醜さ、仕方なさ、どうしようもなさを描く作品は嫌いじゃないが、この作品はそういう汚い、うざったいところばっかピックアップする悪趣味を文豪の手腕で読めるようにしてるだけって感じで、私が好きな暗さや汚さじゃない。もっと根底に、他にどうしようもなかった悲しさみたいなのがないと、楽しく心動かされないよ。それでも不快感ばかりが勝たずに文豪の手腕に打ち震えるところがあったのは、やっぱり百年残る作品だけある。ひさびさにすごい読書体験をした感じはする。嫌いだけど(n回目)
2023/08/23(水) 17:54 作品感想 PERMALINK COM(0)