ペストの方を読もうと思ったんだけど、なんかちょっとその時元気がなかったせいか、分厚さに尻込みしちゃったので、こっちの比較的薄くて早く読み終わりそうな方を手に取ってしまった。処女作&代表作らしいってのも、最初に選んだ理由でもあるが。



好きかどうかって訊かれたら好きって答えるけど、感想が難しいタイプの作品だなぁ……。書いてある内容はいかにも文学にありそうな(って言い方も浅いかもしれんが)ひたすら暗くて、主人公の破滅までを書いてる感じなんだけど、こうやって雑に内容の説明を書いてて、自分でしっくりこないくらい、内容に反して空気がいい作品なんだよね。冒頭から母が死んでるんだけど、そこにあるのは悲壮感とか重さじゃなくて、ただ静かに、優しく事実が横たわっている。そんな感じ。お金なくて母親を養老院に入れてはいるけど、母に愛情がなかったわけでは決してなくて、お母さんが養老院で仲良くなった男の人とよく散歩してたところを紹介された時、母を理解するくだりとかすっごく……良い。養老院だと(他の人を刺激するから)葬式への参加は認められてないんだけど、そんなに厳粛じゃなくて、お母さんと仲良かった男の人くらいは参加してもいいよ、ってゆるさとか、他の入居者と静かに母親の死を共有する感じとか、びっくりするほど空気が静かで、優しいんだよな……。

書いてある事は普通に悲惨で破滅、って感じなのに、あまり嫌な感じがしなくて空気が良い(特に冒頭の母の死までが)。あんま似たような感覚を味わった事がないような……カミュ、不思議な作家だなぁ。犬の事ひたすら罵倒してるじいさんも、犬に愛着がないわけでもなく、ムルソーの母の事とても優しく話してくれたりとか、そういう小粋で素敵なシーンがあったりして……。

なんであんな凶行に走ってしまったかまでは正直ちゃんと読んでもよくわかんないんだが、ムルソーは別に人でなしとか人の心がないとか、そういうわけではないと思う。ただ他の人より全てを静かに受け入れる「異邦人」であり、ちょーっとばっかし頑固だっただけ。って感じがした。まぁそのちょーっとばかし異端&頑固ってのは、彼の破滅を招いてしまうわけだけど……。異邦人ってのは外国人じゃなくて、見知らぬ、他の人達から見たら排除の対象となるおかしな人、ってニュアンスだろうね。

とにかく内容に反して文章の透明感がスゴイ! ものすごく素朴で美しい感性がないとコレは書けないだろうなぁって感じ。素敵な作家だなぁ。ペストとか他の作品もちゃんと読もう。
2023/09/22(金) 19:49 作品感想 PERMALINK COM(0)