再読番外編。





何も不思議は起こらない。彼らのその後が等身大に書かれているだけ。だが、それが良い。

冒頭の茂と孝弘。同じ女にホレた同士二人きりだと気まずいのワロス。

直人が女性人気高いはわかる。お兄ちゃん系男子だしお母さんっ子だしこういう男はモテる。クラスの名前も覚えてない女の子の告白はぐらかしちゃうの、正直わからなくもない。クラスの女の子の話を通して買った遥のアクセサリーをプレゼントして、ホントは二人で先に会ってたのにわざわざ時間ずらして集合場所に来るの、とてもニヤッとした。二人で会ってるとこ見たい気持ちもあるが、敢えての書かないニヤニヤで良いともと思う。男女の機微を孝弘よりは知ってる茂だけ全てに気づいてるっぽいのも上手い。

七海はずっと拓己に片恋してるし、自傷癖も治らないし、弥生は弥生で、母から受け継ぐ魔性の女の素質があってヤバいとこに片足突っ込んでるし。直人の言う通り、普通に生きてるだけで結構大変だ。怪しいチャットで話したお兄さんの「そういう子ほど結構大胆」「二股」という弥生の分析自体は割と当たってるよな。

七海はどーにも救いがないよなあ。絵本を読んでもらった思い出を丁寧に描いてもらったのは救いだろうけど。100万回生きたねこは私も好きな絵本だ。図書室の絵本全部読んでチョイスしたって、サラッと書いてあるが恋する乙女のいじらしい努力を感じる。

絵本チョイスは「生まれ変わったら拓己はあたしのこと好きになってくれる?」って密かなメッセージらしいが、今まさに拓己は好きだった女の子の生まれ変わりみたいな子と一緒にいるわけで、そのメッセージに拓己が気づかんのも含めて、遠回しに返事が来てるような気がするのが残酷に感じるし、切ない。七海はどこまで行っても片恋な気がする。カラー口絵の並行世界でも拓己は唯に恋してるようだし……。(名前出てこないけど語り手拓己だろ、コレ)なんて残酷で最高な構成なんだ。

最後に、唯と拓己について。

「記憶を失くした人は、記憶を失くす前と同一人物と言えるか?」コレは何度そういう話を読んでも、何度たくさんの創作者が挑んでも確かな結論が出ない難しい命題だよね。この作品に限っては「記憶をなくした人は別人」という結論になってるけど。だから私は何度も「ある意味1巻で終わっている話」って言ってんだけど。

記憶の戻らない唯は前と同じ呼び方で拓己を呼び、同じように拓己を好きになる。ちょっとした癖も好みも昔と同じ。それでも別人という結論。

でも同じく、拓己は今の唯が大事。かけがえのない思い出が唯の中になくても、その事で今も苦しんでいても、唯がいなくなったらバカみたいに心配して探し回るくらい今の唯も大事。

久々に会う仲間達も、拓己と唯を仲間として親しげに呼ぶ。その場面でこのお話は本当におしまい。なんというか、仲間達の反応と拓己の今の唯に対する挙動が全てで、結論付ける必要なんてないのかもしれない。再読してそう思った。

「結局さ、ひとっきりなんだと思うよ。誰かといっしょに暮らしてても、相手がどんなに好きでも、どこかひとりっきりなんじゃないかな。人間ってのはさ。でも、だからこそ誰かいるほうがいいっていうか……そういうことなんじゃねえの? すべてわかりあっちゃったら、そこで終わっちゃうし」

七海と仲が良いレコード店のお兄さんの台詞だが、ここら辺は友達を頼りそうになりつつも、問題を自分で解決した弥生、表紙と裏表紙の、背中合わせで手を繋いでいる唯と拓己にもどこか通じる台詞。

唯の記憶が戻らなくても、拓己はその悲しみで唯を責めたりしない。あの時の唯の思い出は、今となっては世界で唯一人、拓己の心の中にだけ存在するもの。そこから産まれる悲しみも、拓己だけのもの。今側にいる唯に愛しさと悲しさを感じながら、無力な少年なりに、痛みを抱えながら折り合いをつけるわけだな……。

今の唯に当たらないのは拓己の強さと優しさもあるとは思う。でも半分くらいは切ない初恋を自分の胸の中にだけしまっておきたいような、緩やかな独占欲もあるかもね。

番外編まで読んで、やーっぱこの作品大好きだわー、って思った。当時もそう思ったのに、記憶がほとんど抜け落ちてた事に自分でも悲しみを覚えたが、それはこの作品の登場人物達が記憶が薄れたり消えることに悲しみつつもどうしようもないように、仕方がない事だよね。またいつか読み返したい作品だなと思う。

面白いっていうか、自分にとってすごく良い本、がしっくり来る表現かな。
2023/10/02(月) 18:13 作品感想 PERMALINK COM(0)