見たい作品が多くて消化が全然追っつかないな。
開始ニ十分も経たず、イケメンが変な椅子になってしまい、ションボリ。この足かせがあるから距離も縮んだし相棒として良い関係になるのはわかるが。でもだんだんこの三本足の変な椅子がカッコよく見えてくるからアニメの動きの力ってスゴイ。でなくてもだんだんヒロインのすずめ、いい関係になる元・イイ男草太が旅を通じて仲良くなっていく過程もありで、二人の関係とかは無難に良い感じ。

不気味な空気、開始即いい関係っぽい男が消える(っていうか椅子になる)、旅に出る、死生観の見える要素等々、全体的に星を追う子どものリベンジっぽさを感じる。痛いジブリパロみたいになっちゃってたアレよか、どう考えてもこっちのが上手い、題材的に話題性もある。んだけど、なんか天気の子同様萌えきれかったし入り切れなかった気がする。不謹慎厨のつもりはないし、っていうか突き詰めれば不謹慎な題材を楽しんだことくらいあるけど、やっぱ地震題材は、ちょっと引っかかりを感じてしまったかな……。この題材で、有名な監督がやったからこその話題性とは思うし、そんな話題性だけで作るような人ではないとは思うけど。感動した要素があまり題材関係なかったから、コレ(リアル災害要素)なかったらなあ……と正直自分は感じてしまったかも。大臣が「人がいっぱい死んじゃうよ?」とか煽り立てるくだりは、未遂とはいえ、普通に不快に感じたし(悪い意味で書き手の主張が出てる感じで、大臣が良い子という最後の仕掛けともなんか合わない台詞……)というか神様って、猫ってそういう気まぐれだったり矛盾するもの、って前提でも、大臣のキャラがようわからん。無邪気な残酷なのかとってもいい子なのか普通に邪悪なのかわからん。

星を追う子どもより開き直ったジブリネタ(ハッキリ意識してる旨が描写されてる)、心優しい、面倒見も良い草太のチャラ男っぽい友人さん、おばさんとすずめが自転車二人乗りして仲直りするくだりは好き。あとニャンコロが可愛い。左大臣が特にデッカイ猫で可愛い。デッカイ猫は宝。今は誰もいない廃墟で、かつてあった人の営みを感じ取って、封印するという新海誠の叙情センスが光る設定も好きではある。

単純に、二回連続で災害ネタはちょっとな……ってのもあるかも。そこら辺気にしなければ普通に良いボーイミーツロードムービーだと思う。天気の子よりこっちのが好きな部分はあるんだけど……。なんというか、不謹慎だったり不快だったりする題材って、それをやる意義を強く感じたり、それ以上に美しいもので上書きされる感覚を感じないと不快が勝っちゃうんだよな。良かったシーンも、新海誠の得意で長所の綺麗な叙情センスも、流石にこの題材は美しさで上書きしきれなかった感じがある。個人的には。キレるほどではないけど。幼い頃の自分との邂逅のシーンで、自分が何か名乗るくだりとか、素敵ではあるんだ。いい台詞だしいいシーンだなって思ったし。でもそれって震災ネタ引っ張り出さなくても、ただ母親を亡くしだたけの子でもいいような気がするし……。いちおうすずめの「死ぬのなんて怖くない、人が死ぬの生きるのなんてただの運でしかない」っていう死生観、価値観に震災要素は関わってはいる。いるんだが……。

ネタが不謹慎な割にそのものズバリ、な描写が全くなさ過ぎるのが新海誠の長所で優しさかつ、欠点でもあるかも。色んな意味で出来なかったんだろうけど。でもコレやり過ぎても絶対不快だからなぁ。ただ震災の死体映すようなもの作って持ってきてたら、多分新海誠の新作なんか二度と見ないわ、ってなったと思うしな。そうやって不快が勝ち過ぎて二度と見なくなった作家なんか珍しくもないし。そこら辺難しくはあるんだが、もう少しお母さんとの思い出と、それが壊されてしまった部分には掘り下げ欲しかったかな? 死体みたいなわかりやすく凄惨な部分を描くんじゃなくて、一緒に住んでた家とその日々の描写もうちょっと入れて、それが壊れた直後の映像くらいは見たかったかも。お母さんがどうやって亡くなったかすら謎だから、すずめの死が怖くない、個人の死生観にもなんか説得力が足りてない気がする。

いやわかるんだけどね、新海誠の優しさ的にも、ほんっとーに誰も彼も自重するレベルの題材的にも、無理だったってのは。そこが見やすくて監督の良い意味での人柄を感じる反面で、なら最初からやらなくてもよくね?みたいにも思っちゃったみたいな……本当にワガママな感想なんだけどさ。そのくらい、日本で地震題材ってタブーもタブーだし、正直無理してやる題材じゃないと思うんだよね。私自身は被災者でもなんでもないし、普段リアル情勢なんか気にもしてないレベルだが、それでもちょっと……って感じる部分があったくらいだもん。「誰にでも何かしら共感出来る題材」ってのは「誰でも何かしらむかっ腹立つ題材」でもあるってことやな。

なんというか、そもそも直接の被災者本人でもなきゃ、うかつに触らん方がいい題材だと思う。新海誠って別にそうではないよね? ドキュメンタリー的な創作、或いは完全ノンフィクションを綿密な取材でしっかりまとめ上げるのを得意とする作家とかなら話は別かもしんないけどさ、新海誠ってどっちかというとSFとか含めた幻想系創作者なわけで、一番苦手な分野だと思うんだよね、そういうの。そういう創作者なら逆に幻想で重いリアルを薄めて、本当に言いたい大切な美しい事を抽出する、って表現もあるんだけど。そこら辺も今回あんま上手い事行ってない気がする。それならまだ作った本人も世間の評価も散々な「星を追う子ども」のがド下手くそだろうとまともな描き方だと思う。すずめの戸締まりは映像で、どうやっても良くも悪くも印象づいてしまう、ってのもあるんだろうけど、元ネタの一つらしい村上春樹の小説「かえるくん、東京を救う」ほど、良い意味での幻想に出来てない感じ。(なんなら村上春樹も嫌な人はいるだろう)

「天気の子」も、個人的に大好きな「雲のむこう、約束の場所」も似たような不謹慎要素はあるんだけど……。単純に、今回は半端に私の嫌なライン踏んじゃった部分があるかな。「君の名は。」ほどのSFファンタジー爽快展開があるわけでもないし。

あれ、なんか気づいたら散々に言っちゃってるな……。「雲のむこう、約束の場所」も「君の名は。」も、(架空創作に近いけど)北方領土問題とか街が災害で滅ぶとか、現実を彷彿させるデリケートな部分あったけど、それがメインじゃなかったじゃん。メインテーマは少年と少女の出会いと愛の話でさ。でも「天気の子」をちょうど境目として、「すずめの戸締まり」で、裏テーマ、スパイス程度だった現実の問題、或いは現実にありそうな何かがメインに来始めているというか……。良い意味でずっと少年みたいな創作者の感覚が変わって来ちゃってる感じがするというか……。単純にほわんほわんしたボーイミーツガールばっか描いて来て、自分でも飽きて来てんだろうなっていうか……。そこがちょっと、私に合わない感じに変わって来てるのかな。

しかし新海誠作品のメインカップルって、無難に悪くはないけどなんか自分にはイマイチ刺さりにくい気がするのなんでかな? 個人的に、「雲のむこう、約束の場所」が一番そこら辺も好きだった気がする。久々に見返したい。
2023/10/07(土) 19:58 作品感想 PERMALINK COM(0)