再視聴。良かった……。

やーっぱり私、コレが新海誠作品で一番好きだな。冒頭の、憧れの女の子の佐由理と主人公の浩紀が会話して、不意に沈黙が流れたり。三人で座ってる場所に光が反射して、そこの円がまるで地球とかスノードームみたいに綺麗に囲われてる演出とか。男同士、二人っきりの秘密のはずが、ついつい洩らしちゃって女の子が混じっちゃったあの感じとか。

客観的に見てそんな完成度高い作品じゃないのはわかってんだが……。新海誠フリークでもコレが一番好きって人は多分あんまおらんだろうし。離れていても、それぞれ孤独に包まれた浩紀と佐由理が想い合っていた三年間と、偏差で再会を果たせなかったけど、夢、並行世界越しに二人が病室で出会い、もう一度約束をするくだりはとても私の叙情心をくすぐる。浩紀が佐由理の弾いてくれたバイオリンが忘れられなくて、自分も東京行ってからバイオリンの練習してた……ってのもすごく好きな人を想う感じがするんだよね。ここの浩紀の演奏と拓也のからかい混じりの会話も好き。男同士の友達らしくて。というか再視聴して思ったが拓也が本当良いキャラしてるわ。この人の描く男の友人キャラみんな素敵よね。

私バカだったから、コレ最初に見た時ラストが理解出来なくてさ、ハッピーエンドだと思ってたんだよね。実際は冒頭がエピローグになってる構成で、大人になった浩紀の隣にゃだーれもいないんだけどな……。あんなに想い合ってたのに、何より佐由理本人が夢の中であんなに望んでいたのに。最後、浩紀の呼び方が変わっちゃってるのがすげぇ悲しい。

その上で、ハッピーエンドではない、失われてしまう物語という上でも、この作品の評価は覆らないんだが。あざといとは思う。穴はある作品だとは思う。その上で、新海誠作品のメインカップルズで一番好きな二人だし、物語なんだからしゃーない。

佐由理「私は、ずっとその場所から出る事が出来なくて──ずっと一人きりで、すごく寂しくて……それでね、もうきっと心は──このまま消えちゃうんだろうなって時にね。空に白い飛行機が見えるの」
拓也「白い飛行機?」
佐由理「うん」
拓也「それから?」
佐由理「夢は、そこでおしまい」

バカだったから当時見逃してたけど、冒頭以外にもハッキリこの物語の結末を示してる会話がある。つまりこの物語は、佐由理を飛行機に乗せて塔まで飛んでいくという約束を果たしつつ、塔に閉じ込められたお姫様を王子様が飛行機に乗って助けに行くお話。物語はそこでおしまい。お姫様と王子様はその後末永く幸せに暮らしました、なんてお決まり文句はついてないわけだな。だから、冒頭の大人になった浩紀は、あの日の思い出を抱えたまま、独りぼっち。塔が壊れるのも、思い出と約束と青春がそこで終わる象徴なわけだ。

それ込みで好きとはいえ、やっぱ一番萌え萌えした新海誠作品のメインカップルが一番救いがないって事実を突きつけられるのやっぱつれぇわ。この物語が、約束を果たす事、彼女を助ける事が目的でハッピーエンドなんだとわかっていても切ないわ……。

私が多分ゼロ年代セカイ系あるあるだった「少年少女が運命の出会いを果たし、恋に包まれながら謎の全能感を感じながらも、結局大した事は出来ず、大切なものを失ってしまう」って流れに囚われた古いオタクの亡霊すぎるだけなんだと思う。絶対客観的に見たら昨日見たすずめの戸締まりとかのが話題性も飽きさせない展開も色々上手いし。

愛した女を救ってハッピーエンドを迎えた方が、王子様だって視聴者だって幸せに決まっている。その上で私はこっちに惹かれて仕方がない。スズメの戸締まりのイケメンハッピーエンドヒーローよりも、正直友人よりイケメン度が落ちる、愛した女を自分自身で幸せに出来ない、それでも友人の力を借りながら、愛した女を救うことは出来たカッコイイヘタレ王子浩紀に惹かれて仕方がない。いばら姫にキスシーンとめでたしめでたしエピローグがついてないような、落丁本みたいな、当時の新海誠流おとぎ話に惹かれて仕方がない。私はゼロ年代セカイ系の儚さに今も陶酔してる痛いオタクだから……。新海誠本人すらもうそんなところにはいないというのに、私はとっくに過ぎ去ったゼロ年代セカイ系の世界で、勝手に寂しさに包まれながら朽ちていくしかないんだ……。

でもやっぱ寂しくて綺麗で儚くていい作品だと思うよ、本当。
2023/10/08(日) 12:07 作品感想 PERMALINK COM(0)