同タイトル映画のノベライズ。うーん……合わねえ!




良い部分もあるんだけど解釈違いがすごく多いのと、イマイチテンポが良くない感じがして正直嫌いなノベライズ。

作中でも眠り姫とハッキリ引用されてる通り、コレは新海誠流眠り姫って感じの作品なんだが、眠り姫って姫様が寝てからすぐ、起こす王子様の話に切り替わるじゃん?映画もそんな感じでそこら辺テンポ良かったんだが、この小説って良くもわるくも丁寧っていうか、お姫様が寝ていて王子様が悩みながら助けに行くまでをじっくり描いてるから、正直そこの中間部分が退屈。

理佳(浩紀が東京で仲良くなった子)を掘り下げる意味が正直よくわかんなかったかな……。彼女振り切って地元に戻る時、「女の子のことでしょ」言われて「違う」って答えるのもなんか最後の流れ考えると納得がいかないというか変な感じだし。

いやまぁ、過去の清算であって女の子の話じゃない、って物語の理屈もわかるんだが、今カノ振り切って初恋の子の元に走るそれはどう考えても「女の子の事」でしょうよ。映画みたく、ただお姫様を助けて終わるならまだしも、この本ではほんのわずかの間だけど同居して、サユリの事も抱いてんだからさ。それで違うって言い訳すんの、誠実じゃないと思うよ。仮に違ったとしたって言い訳出来る状況じゃねぇよ。理佳だって元カレとちゃんと別れてからお前と付き合ったんだから、半端に村上春樹気取ってねぇで、そこはもう少し誠実に向き合えや。

っていうか文体がもうそれなんだが、村上春樹のやーな表面上のとこだけ真似たような、ひねくれた書き方を感じるのよね。いやまあ新海誠も多分そもそも村上春樹好きだとは思うんだが、私も村上春樹自体は好きな作家なんだが、どうにも全体的にこのノベライズ作者とは反りが合わねぇ感じがするなぁ。

正直この作品でサユリ抱いてたのはなんかイメージと違い過ぎるなぁと思った。そこら辺の妙な肉体関係も悪い意味で村上春樹くさいというか……。いやまあ理佳を抱いた描写はないから、真実愛だけで性愛描いただけといえばそうなんだが……どうにもイメージと違うなぁって。ふんわり同居してHしてふんわり破局したって感じなのがな。いやまぁそこ含めて言わんとする事はわかるんだが、(束の間だけど一緒にいられたという救い、そして二人の自立、そして主題歌にもあるように「生きる場所が違っても……」的なアレ)解釈として受け入れられないなぁ。例え少しの間だけでも一緒にいられたって救いの話なら、それは三人で過ごした中学の青春時代、消えてしまっても心が繋がっていた夢世界の出来事で十分なわけで、コレは悲しみにトドメを刺してるようにしか見えなくて、嫌いなくだりだわ。「夢は、それでおしまい」っていうサユリと拓也の会話とも合わねえ描写だし。前述のような意図が一応つかめても、半端にその後作って何がしたいの?としか。

拓也と浩紀の友情描写が丁寧だったり、作業所のおじさんの補完があったり、悪くない点もあったんだが……全体的に映画より嫌に後味悪い感じに補完されてしまっている印象が強くて、正直読まない方が良かったなぁという印象。

個人的に「星を追う子ども」と「言の葉の庭」は小説版の方が良いと思うんだが(特に星を追う子どもは、映像だとジブリデジャヴのせいで見ててノイズが酷いから小説の方が良い)、雲のむこう、約束の場所は映画が至高かなぁ。

久々に公式メディアミックスとの解釈違いを起こした感じ……正直サユリの愛の記憶がフッと失われたがごとく、私もコレをワクワクしながら読んじまった記憶を忘れたい。村上春樹の影響をキチンと自分の物に昇華出来てない感じがする、このノベライズは。村上春樹がやるフワッとなんかが失われて女を抱いてフワッと別れるようなアレって、村上春樹以外の人がやるとキツイ。春樹ファンの作品、スゴイ嫌いとすごい好きで真っ二つになりがちのような……春樹の表面の痛いとこに影響されるか、もっと根っこの、私の好きなとこに影響されるかの違いなんだろう。村上春樹のあの作風って、なんとなーくフワーッと描いてるんじゃなくて、フワーッとしたよくわからないもんを何回も何回もアホほど推敲して真剣に明確に作ってる、って感じだから、そこまでやるのって常人には無理だし……。影響されてるの自体はいいが、その上で何か一つは作者の独自を感じられないと読んでてツライ。
2023/10/19(木) 07:46 作品感想 PERMALINK COM(0)