深景さん……。






あの物語にあの結末以上のエンディングなんかないというか、アレに分岐を作ったり別の結末にしたら話が壊れてしまうのは承知の上で、深景さんと主人公に幸せになって欲しかった気持ちが消えない。実は当人達の生まれ変わりだったのか、単に魂の輝きがそっくりさんなだけの別人だったのかそこはわからんが、作中の七夕伝説を彼らなりになぞるような流れを再現してみせておいて、最後の最後で違う結末になったよな、深景さんと松永のおにーさん。作中の七夕伝説の二人は最後、また引き裂かれる旦那が可哀想だからってんで天上に迎えられて二人幸せに暮らすじゃん。でも深景さんと主人公ってそうはならなかったわけで。あのまま主人公も一緒に行っちゃってもなんらおかしくない空気だったのに、そうはならなかったところにこの作品がやりたかった独自の死生観があるんだろうね、雫ルートの兄貴視点のシーンでその布石として語っていたように。やっぱり最後の最後で作中の七夕伝説と分岐するような結末を取った松永のおにーさんと深景さんは、伝説の二人とは別人説のがしっくりくるかも。それはそれとして、時折訪れる夢の中にいた織姫に関しては深景さんだと思うし、深景さんが織姫が織物を作るように、物語を紡ぐ力があるのは間違いないと思うが。

しかし1999年、まだノストラダムスだの世紀末だの、ド直球ホラーだののきな臭い作風が流行っていたであろう時代に、こんな澄んだ死生観の作品が出てたのも驚きだよな。エロゲの幽霊ものとか死生観ものなんかまったく珍しくもないというか、それ自体は見過ぎて飽きるレベルに達してると思うんだが(いくら私がそれが刺さるタイプにしても)、こんなに澄んだ感性の作品を私は知らん。コレの十数年後に出たソラの花なんか、新しい美しい死生観に挑戦しようとして、明らか道中大失敗してたと個人的には思うし。(アレが光っていてかつオリジナリティさえあったのは、従来の幽霊ホラー&幽霊王道の感動)監修の蛭田さんが直接書いたらカオスなギャグ交えた直球のホラーサスペンスになりそうだよな、リフレインブルーの大筋の流れ。ほんでもってやたらムズイし分岐やエンドが多い。まぁそれはそれで面白いとは思うんだけど……。死んだ後に残る残留思念みたいなもんの話で、悪霊とか幽霊に走らないで、その想いそのものに着目できる人って、プロでもあんまいないと思うんだよな。(当時なら尚更、なんなら今の時代でも)。やっぱ稀有な作品だと思う。

ふんわりポエミィに見せかけて、数字まで七夕伝説にこだわった作り、日和った分岐エンドがなく、深景エンドさえ書きたいテーマに一直線な辺り、実は頑ななほど頑なな作品という印象も受ける。やりたいことの地盤はむしろかなりしっかりしている作品だと思う。それだけにもっと刺さる人以外も引きこめたんじゃないかって意味で、深影ルートでテーマ性以外の現象の理由付けが曖昧にぼかされてるのが惜しい気がするんだが。私みたいにぶっ刺さる人はぶっ刺さる止まりになっちゃってる。そこがやっぱ惜しい。構成周りとか言うほどポエミィじゃなくてむしろガッチリしてるくらいなのに。多分ここら辺がコレ書いたライターの苦手分野なんだろうなとも思う。心情や情景を書くのはすごく上手いし、構成力も実はかなりあると思うんだが……。狙ってそうなってる(謎は謎のまま)部分もあるとは思うんだが。狙って詩的な部分と単純な苦手が混在してそう。そういう意味でも次回作が楽しみな感じのライターだよな(※コレ一作きり)

つぐみちゃんは結末も序盤の挙動も賛否が分かれるキャラだと思うが、愛が深いというか重そうなのに自分の愛を押し付けて来ないところ、絵が上手で大切な事を書き記しているところなど、実はみかげさんとキャラクターが一番ダブるというか被せて来ていて、重要な部分を担っているのは彼女なんじゃないかと思う。ライターがどういう意図でやったのか、物語が紡ぎ直される時に深景さんの想いが織り込められたのか、単に彼女のキャラクター性が話の統合性とか細かいとこを超えてそうさせたのかはわからんが、彼女の最後発表した「月とにんぎょ」という絵本は、内容こそわからんものの、明らかに他ルートで深景さんが語ってみせた月と人魚のお話である。つぐみエンド後の主人公を想像すると、あの絵本の絵や後書きを見て、思い出の女の子になってたつぐみちゃんの事を思い出すのだろうし、なんかその流れって深景ルートで深景さんの事を思い出す流れにも近そうな気がする。というのは完全に妄想なんだが……。

まあグダグダ語ったけど、この作品が一番言いたかった事って深景ルートのエピローグ、深景さんの語り部分なんだと思う。最後までメチャクチャ作中でこだわってた七夕伝説すら、ここに比べたら重要じゃないと思う。最後七夕伝説と袂を分かつ結末になったのもそういう事だと思う。言いたかったのがここだから、伝説と全く同じ結末にはならない。って自分でつらつら語って、昼間ふと深景さんの最期を思い出して泣きそうになるヤバメンタルを落ち着かせている。実際、ここまで書いてやっと具体的に納得出来たかも。

この作品を7年通り越して24年後にプレイしたオタクがこんなに深景さんの最期でダメージ受けてんだ、深景さんが奈緒ルートや雫ルートで自分の最期を改変しているのもわかるってもんよな。各ルートで語られる深景さんと主人公との思い出がちょっとずつ違っているっぽいのは、単に思い出を小出しにしてるだけで改変じゃないかもしれないが、深景さんの最期が深景ルートとそれ以外で違う(他ルートは、主人公は深景さんの最期に立ち会っていない)のは深景さんの願望だろうね。結局松永のおにーさんが忠犬彼氏過ぎて全てを思い出しちゃったようだけれど、本当は忘れてなんか欲しくなかった女にはご褒美だろう。ここら辺の心情の塩梅(愛する人のため自分を消したが、本当は忘れて欲しいわけがない)がまた、私が彼女を忘れられない理由の一つでもある。別に聖人君子とか強い女というわけではなく、ただただ心が、魂が澄んでいる女というだけなのが私の心をつかんで離さない。私のような薄汚いオタクに「魂が綺麗な女」って言葉出させた深景さんすごいよ。

由織さんとかつぐみちゃんとかちなつちゃんとかみんなそうなんだが、このゲームの女子の人間らしさって生臭いんじゃなくていじらしいんだよな。女から見ても可愛い女っていうか、なんかそこも当時ウケなかった理由なのかな。割とエロゲヒロインっぽい造形や生々しさも持ってるかなーってのは雫ちゃんと奈緒ちゃんくらいで、後はなんか根っこが少女小説とかでもやっていけそうなキャラばっかなんだよな。

コレのお陰でエロゲのやる気が上がったから、数年くらいPCに落としっぱなしのエロゲ群ちゃんとプレイしてデータ整理したいのに、なんかリフレインブルーのデータが消しがたいし、相変わらず私だけ想い出の海から出られない。いつまでリフレインしてんだよ。岡本倫先生の悲恋短編群みたいに、登場人物が泣くとこで終わるような作品だったらなんかキャラも一緒に泣いてくれてるような感じもするけど、このゲームの場合、クリア後はもうあの海に誰もいない感覚があるので、(管理人さんと由織さんはいるだろうが、そういう事ではなく)二次元の中でも孤独なオタクである。ツライ。
2023/11/03(金) 00:39 作品感想 PERMALINK COM(0)