日本童話の父と呼ばれる人らしい。名前と表題作をふわっと聞いたことがある、くらいだったけど……。すごい情感が豊か! 文章がやわらかくて綺麗! 大人が読んでも……というか大人の方がわかる、ツボる感じの美しく切ない童話がいっぱい!




【赤いろうそくと人魚】老夫婦に拾われた人魚の話。人魚の実母の優しい真心は、結局悲劇を呼んでしまった。人魚の実母の言う優しさもあるかもしれないが、人も普通に異端を虐めるし弱いからね……。

【牛女】母と息子の、死後なお続く家族愛の話。終わり方が好き過ぎる。

【時計のない村】時計のない村に時計が導入される話。この本の中では珍しく教訓的かも。

【小さな草と太陽】小さな草の一生の話。とーってもメルヘンで少し寂しい。メルヘンを織り交ぜた自然風景の描き方が綺麗だなあ。

【野ばら】表題作かつ作者の代表作の一つっぽい。老兵と青年兵士の友情の話表紙とタイトルを飾るだけあって、短い中にエモと美しさが詰まっている。夢、ってあるけど、青年は最後に会いに来てくれたんだろうね。

【あめチョコの天使】お菓子のパッケージの天使に意思がある、って話。とってもメルヘンだが、美しく無情な無機物?の死生観も描かれる。設定や世界観が一番好き。

【はてしなき世界】赤ん坊が感性豊かな少年になるまでの話。石相手のやり取りが、ホントに石に意思があるように描かれててそれがまた美しいのだわー。(シャレではなく)

【月夜とめがね】詩的。雰囲気ものっぽさが強いが、女の子の正体の発想だけでため息出る綺麗さ。

【あらしの前の木と鳥の会話】人間へ天誅を、みたいな話。良くも悪くもメッセージ性が強いけど、童話だしな。

【負傷した線路と月】線路と月の話。線路にこんな発想が出る作者は本当に想像力が豊かで世界に慈しみがある人なんだろう。月が優しいし、線路の話友達が撫子って……この人のメルヘンの発想素敵過ぎねえか?人外主人公の話全部好きかも。

【あるまりの一生】タイトル通りのボールの一生の話。なんというか、無情。子どもの可愛さも残酷さも出てる。

【水車のした話】水車が友人の鳥に、冬の間に出来た友人ネズミとの思い出を語る話。それだけなのに、ネズミとの友情も鳥との友情も良すぎるんだわ。

【ふるさと】外の鳥が籠の鳥を哀れむ話。わからんでもないが、個々には個々の生きる世界があり、干渉も変えることも出来ない感じもする。

【南島の女】南の島の原住民の住むところに流れ着いた、文明人の青年の話。文明アンチの自然賛美っぽいとこもあるんだが、ヒロインである青年の嫁のあまりの心の美しさに、そういう気持ちも失せる。素敵な恋愛ものだと思う。

【台風の子】少し不思議な男子の友情の話。野ばらも素晴らしい短編童話だけど、個人的に一番好きな話はコレだな。台風と共に描かれる、源吉と龍夫の合作みたいな世界観が力強過ぎる。

「生きているのは、台風だけでない。この世界が生きているのだ!」

この台詞がカッコよすぎて、生をイキイキと描きすぎていて、爽やかささえ感じるラストシーンと合わせて全然湿っぽくない。台風のように、友情もなにもかも強い話。この話はファンタジー要素ひょっとしたらないのかもしんないんだが、子どもの想像力の話、あるいは子どもなりに気持ちに一区切りつけた話だとしても、とても素敵な発想の話だと思う。

【どこかに生きながら】母猫と息子猫の家族愛の話。前半は辛くも微笑ましいが、ラストが……猫の強い家族愛も感じるが、切ない話だなあ。

【みどり色の時計】おじさんが約束を果たしてくれる話。コレとはてしなき世界は、作者の実体験もベースなのかなと思った。

あざとさは少なめというか、サラッとしたラストの話も多いのだが、どれも心に残る。なんでも1080編くらいの童話著作がある人らしい。すごい好みのタイプの作品集だったし、いつか全部読むのに挑戦してみてえ〜。
2023/11/15(水) 18:54 作品感想 PERMALINK COM(0)