竜糞くさい牧歌的ファンタジー2巻目。相変わらずメチャクチャ楽しい~!面白い~!
前の巻では試練を受けるフュンフとヴィーヴィー、しかしそれはまた別の話!で終わってたが、そこから始まるのではなく、試練はとっくに終わって三年後、傾いていた実家の牧場経営も立ち直ったところからスタート。美味しそうなところ思い切ってバサッと切っちまうのはプロの手腕だなぁ……。それがまた、肩透かしではなくむしろとても面白い。三年経って、みんなの末っ子弟う分だったフュンフにも部下的な面倒を見ないといけない四人組の新人が出来たり、フュンフの相棒竜のシッポもヴィーヴィーのとこの竜とデキてタマゴが生まれていたり、二番目のフュンフの姉貴が結婚したり、勘当状態だった兄貴が戻って来たりと人間関係の変化が起こっている。久しぶりに遊びに行った親戚の子どもが、すっかり大きくなったかのようにフュンフ達にも変化が起きている。

基本流れはゆったりしていて、本の半ばくらいまで色々起きつつも結婚式の準備と結婚式当日の様子をのんびり描いているだけなんだけど、それが何故かめちゃくちゃ面白い。結婚式の衣装とか、うかれた人々の様子とかすごく華やかで、これがラノベ分類ではないから挿絵ってものがないのが惜しいと思うくらいだ。久美沙織先生の美文だけでも十分なんとなく絵が浮かぶし、読んでて華やかなんだけどさ。おめでたいお姉さんの結婚式と同時進行で生まれるシッポの子ども達もめちゃくちゃ可愛い。ディーディーのお父さんがデロッデロにメスの小竜にハマっちゃうくだりとか面白い。

しみじみと良いシーンが多いんだよね。夕日の中、結婚式終わって帰っていく、名前もちゃんと覚えきれない招待客が、フュンフの目にすごく愛おしく見えたりとかさ。それでいてヒヤリとさせられる部分も多い。終盤の子竜いなくなった騒動なんて、すごく子竜の描写が愛らしいもんだから、一緒にフュンフと傷ついてしまったくらいだ。最後の最後、お兄さんがどうして出て行ったのか明かされる流れとかも、単なる親子喧嘩かと思いきやひと捻りあって、なかなかゾッとしてしまうものがあったな……。

久美先生のファンタジーはとても入りやすい。手触りも臭いも色も音も、遠い異世界のはずがとても身近な感覚がある。ここら辺の久美沙織先生の「生きたファンタジー」の感覚の素敵は、先生の友人かつ今回の巻末解説を引き受けている松尾由美さんのがずっと上手く書いてると思う。流石作家だなぁと思う、しっかり読んで一読者として感動した感じの、素敵な解説だなあって感じ。柔らかさや温かさ美しさと一緒に、ヒヤリとする怖さとか血も一緒にくるまれているのが久美沙織ファンタジーだよなぁ。実際にたくさんの動物を飼っていて、肉を死体から捌いたりなんかもしてる体験者のリアリティと、豊かな美しい感性の合わせ技というか。

もちろんというべきか、ヴィーヴィーとフュンフのラブコメロマンスもちゃんとある。序盤のヴィーヴィーと仲良くしてる優男に嫉妬しまくってるフュンフとか、しかもそれが全然伝わってないとか、最後のヴィーヴィーの心情種明かしとか、ニヤニヤもいっぱい。エルみたいなキザ優男って、女子は好きになりがちだけど、男子は大抵嫌いだよな。とか恋愛事情差し引いても思ったりなどした。

解説含めたら500pオーバー、前巻より分厚くなっているレベルなんだが、読み始めるとあっという間だった。この人はやっぱこのくらいの尺でじっくりのびのびと書く方がいいな……。私の下手な言葉で、概要だけ説明するとなんか面白くなさそうに感じてしまうんだが、美しさとリアリティと説得力のある美文が全然退屈させないんだよな、この作品……。読んでて本当に久美沙織さんは文章が綺麗な上に上手いなぁ……と感じた。

前回同様、ヒンドリの兄ちゃんが情けなくも頑張ってる描写があって、家族として受け入れられてて、どうもアリオにも脈がありそう……と感じるのが地味にうれしかったり。なんか好きなんだよなぁ、ヒンドリwデブだしイマイチパッとしないんだけど……。色んなキャラいるんだけど結構するするっと頭に入って来て把握出来て愛着もわいちゃうのもすごいよなあ。
2024/01/23(火) 22:58 作品感想 PERMALINK COM(0)