乙一さんの短編集。昔小畑健のコミカライズで前編だけ読んだ「はじめ」目当てで読んだ。ホラー短編集的な感じだが、この独特の透明感と繊細さは、どっちかというと幻想短編集とでも呼びたい。




【石ノ目】同僚の教師と人を石にしてしまう化け物の棲むという伝説がある山に行って、謎の老婆が住む家に居候する話。独特の不気味さと緊張感はあるものの、このストーリーラインで直球ホラーではなく悲しい友情と家族愛に仕上がってるのは乙一流。

【はじめ】お目当ての作品。友人男子と空想少女の友人の幻想を共有する話。ヒヨコを踏み潰して死体を隠してバレるくだり、コミカライズ版にあったっけ?20年以上前の事だし忘れたが、子どもってなんでこう隠蔽工作が下手くそなんかな。即ゴミの日に捨てるとか、どっか普段行かないとこに捨てちゃえばわかんないのにさ。そういう浅はかさを感じるエッセイを直前に読んだのもあるし、自分も覚えがある感覚だからこそそう思う。まあそのくらい子どもの世界と視野って狭いんだろうけど。

幻覚少女はラノベとかでもよくあるが、はじめちゃんはその中でも立体的な女の子だろう。二人の男の子には触れるし体温もある。即興で作られた設定が彼女には本当で、後から修正も聞かずはじめが苦しむ事にもなる。時々二人以外にも見えたりする。友人二人で同じ幻想を共有とかBL級じゃん、とか茶化しながら読んでた私を反省させて悲しませるくらい、ラストの一文は切ない。

【BLUE】余った素材で作られたブサイクな青い肌の人形の女の子、ブルーのお話。多分内面の美しさと見かけだけの美しさがテーマになってて、愚直なほど良い子のブルーと、成長を見せるブルーの持ち主の男の子テッドとで、本当の美しさがかかれている。テッドの成長は微笑ましかったけど、ブルーの愚直過ぎる良い子は胸打たれる反面、みていられない気持ちにもなる。残酷な女の子と意地悪な人形達も怖い。ラストシーンが美しくも無慈悲。騎士の立ち位置とキャラクターが良く、世界観的にはこういうの一番好きなやつだが、一番ホラー的な怖さもあるかも。

【平面いぬ。】表題作。主人公が自分の肌に掘った入れ墨の犬が動き出す話。どんどん立体的な動物として手に負えなくなる平面いぬポッキーと、平面の良く出来たドラマみたいにそのうち死ぬ現実の家族3人が対比的かつ構成と温かい心情で強く結ばれている。嫌なおじいさんにスッキリしつつも少し切ないラストだけど、どちらも大切な家族なんだろう。

はじめと石ノ目が特に切ない。心臓と目の奥がムズムズする。久しぶりの乙一だがやっぱり匠の技術がある。
2024/04/02(火) 08:36 作品感想 PERMALINK COM(0)