1終了直後、2始まる直前くらいの妄想。いや設定として葬り去られてるだけだろうし、普通に無印2巻のあっかんべーで色々ゴメン、ってなってるだけだと思うけど妄想としてやってみたかったやつ。でも2の1話2話読み返すと、やっぱ謁見のくだりとか呼び出しのくだりとか、ククリを無視してる感じして、それをニケが引っ掻き回してる感じがして違和感あるし、そこまで妄想じゃない気もする。ssログ10本行ったら観念してグルグルサイト作ろうかな……。
──勇者様が今日は優しい。
朝から家に迎えに来て、コーダイ城下町で一番大きなブディックへ引っ張って行って、なんでも好きなものを買ってしんぜよう。なんて言うからククリも驚いてしまった。いやニケはいつでも優しいのだけれど、今日は変な感じ。積極的にこの服がいいとかあの服がいいとか自分で選んで来ては試着させてくるし、一着一着を具体的に褒めて来るし。
ニケの優しさはさりげないもので、こんなにククリがわかりやすく嬉しいものではない気がするのだ。
「次はこの服はどうだ?」
極端に布面積が少ない水着に、これまた生地が薄過ぎる上着を合わせただけな衣装を、エッチな事考えてる顔で差し出して来るニケに、ククリの疑問は霧散する。
「やだ勇者様! これスケスケだし布面積少なすぎ!」
「こういうのも似合うと思うんだよな~」
「勇者様のエッチ!」
「と、冗談はこのくらいにして」
「うそ、絶対エッチなこと考えてた!」
危ない水着らしきものはさっさと元の場所に戻して、ニケが持って来たのは裾にフリルのついたワンピース。淡い桃色で、ククリの乙女心が本能的に喜びそうなデザイン。
「これ。着てみて」
「え、う、うん……」
有無を言わさない空気があった。可愛い服だし、文句もないけれど……。
試着室から出てきたククリを、笑顔の勇者が出迎える。
「おー、やっぱりいいじゃん。はいコレ、お姫様のティアラ」
リボンのついた可愛いデザインの冠を被せられる。
「靴も持って来たんだ、座って座って」
地味な黒いブーツを脱がされて、ワンピースと揃いのピンクのブーツを履かせてもらう。自分で履く、と言ったのだけど受け入れられなかった。
「王子様にガラスの靴を履かせてもらうみたい」
「王子様、ねぇ」
王子様、なんて夢みたいな事を言った瞬間のニケの笑顔が、なんだか皮肉に見えた。
「ごめんなさい、あたしったら何言ってんだろ」
「いいよ別に。ククリの王子様なら」
靴を履かせる為に跪いた様子は、騎士様みたいだけれど、もう一度改めて見た笑顔はやっぱり王子様。
「えっへへぇ、じゃあククリはお姫様ね!」
「うん、やっぱりピンクが似合うな」
やっぱりって言うけど、こんなお洋服着せて見せた時があったっけ。あったような気がするけれど、頭の記憶が優しい霧に包まれていて、思い出せない。
「んじゃ、このまま全部一式買ってくか!」
「ええ!? いいよ、こんな高いお洋服……」
「いいのいいの、王様から巻き上げた金があるからさぁ」
「勇者様ってば、もう!」
〇
「で、話ってのは?」
魔王封印後、ニケだけが国王に呼び出され謁見の間にいた。
「うむ……魔王討伐を見事果たした事だし、お前をコーダイ城の王子として迎えようと思ってな」
そういえば父ちゃんが持ってきた立て札にそんなようなことが書いてあったような気もする。どうでも良かったので忘れていた。
「ククリは? 直接魔王を封印したのはククリの方だし、俺が王子だったらククリも王女として迎えるはずじゃないの?」
「うむ……」
この髭面国王、バカみたいに汗をかいている。内心で舌打ち。
「ククリがミグミグ族で闇魔法使いだから、王様の一族に加えるわけもいかないんだろ? 勝手だよなー」
「なんとでも言うがよい」
「ほう、なんとでも」
ニケはどこからともなくメガホンを取り出し、窓を開けた。
「皆さん!! 王様は慢性的な痔に悩まされています!! 一国の王が!!!痔!!!! 恥ずかしいと思いませんか!!! 細長い偉そうなヒゲもウザったいし、このままこんな奴を王にしていて良いのでしょうか!!!」
「取り押さえろ──!!」
衛兵達がニケの元に走り寄るが、すばしっこい勇者を捕まえる事など出来ない。勇者を攻撃力しようとした槍が直前で回避され仲間に当たる。大人との身長差を利用し、位置を調整された上での回避は、味方の弁慶の泣きどころを刺す。衛兵は鎧を着ていて大事にはならないものの、そんな事を繰り返すうち兵士同士のボコり合いになり、ニケはまんまと部屋の外への脱出に成功した。
「褒奨金だけもらっとくよ、じゃーねー。勝手にお城の宝箱開けてボーナスも貰っていくから」
「何をしておる、ひっ捕らえろー!」
○
世界を救っても、ククリはお城の舞踏会では踊れないらしい。
──オレは、ククリがどこでも安心して躍れる世界が作りたかっただけなのに。
「勇者様?」
「このまま踊ろうぜ。オレ下手だからさ、ククリが引っ張ってってくれよ」
「でもここお洋服屋さんだし」
「ちょっとだけちょっとだけ! 勇者は世界を救った後、お姫様とダンスフィーバー!ってね」
広い服屋の片隅、高貴な伝統も知らず。踊るお姫様を見つめるのは、手を取る勇者ただ一人。