花の国行く道中の話。発作的にこの世にニケククを増やしたくなる。水の剣でキタキタおやじぶっ刺そうと思ったけど、この時期まだ水の剣覚えてなかった。







 花の国、なんて言えば美しい響きだが、道中は普通に険しい道旅で美しくもなんともない。というか普通の森よりツル草がうざったいし、草の育ちが良すぎて歩きにくささえある。魔王軍はキタキタおやじの不気味な踊りと、最強攻撃力を誇るウニョラーククリで簡単に蹴散らせるが、一番の敵は花の国への道そのものだった。

「多分花の国の周辺だから、植物の育ちも良いんだろうなぁ……」
「わたしのキタキタ踊りが映える景色ですな」
「そんな踊りはどこでも映えないよ!」

 あちこちの草木も花を咲かせていて、急ぎの旅でなければ、多少の足場の悪さより景色の楽しさが勝っていたかもしれない。一番に花々を喜ぶククリが正気でないのも残念な事である。今はククリも
花より団子、今夜食べる虫を狩って──。

「変な物食うな! こっちにご飯あるぞ!」
「ウニョ?」

 「もうじゅうのエサ」と描かれた箱を示すと、興味を持ってくれたのか表現をするのもためらわれる毛深い虫を放り出してこっちに戻ってきた。ほっと一息ついて、箱の中のエサを取り出す。

「ほーらちゅーる、ウニョちゅーる~」
「ウニョラー」
「キタキタ―」

 ペロペロとチュールを舐めるククリ。横で踊りながらパンを齧るキタキタおやじ。奇妙な光景であった。

「食べる時くらい踊りをやめろ」
「食べる時も眠っているときも踊ってこそ真のキタキタ踊り……ゴホッ!?」

 気管に引っかかったらしい。盛大にむせた後、キタキタおやじは動かなくなる。

「これで安心して飯が食えるな!」
「ウニョラー!」

 仲良くちゅーるを食べた後(人間が食べてもまあまあだった)、ククリはニケの膝を枕に寝入るモードに入ってしまった。

「こうしてるとネコみたいなんだけどなぁ……」
「これは微笑ましいですな、はっはっは」

 いつの間にかキタキタおやじも復活して、踊りながらパンを食べている。食事が終わった後で良かったと思いながら、ククリのチョコレートみたいな色の髪を撫でる。ククリの髪色みたいな甘いお菓子を食べさせてあげたいだけだったのに、大変な事になってしまった。案外険しい道中、ウニョラー化して暴れまわったせいでククリの格好がボロボロだ。いつもだったら汚い格好をククリが気にしただろうから、正気じゃないのは彼女の為に良かったのかもしれない。浜辺のまっさらな貝みたいに白い顔もよく見れば泥がついていて、髪もボサボサ。ハンカチを取り出して頬を拭ってやり、髪の毛も手櫛でととのえてやる。

「ウニュー……?」
「悪い、起こしちゃった? もう少し休んでていいぞ? 道中も大活躍だったからな、疲れただろ」

 なるべく刺激しないよう、優しく声をかけて。寝かしつけにそっと背中を叩いてやったのだが。

「ウニョラー♪」
「へっ?」

 チュッ。やわらかいくちびるが頬に触れて、ついでに舐めあげていった。理解が追いつかないニケをよそに、ククリはまた勇者の膝を枕に眠りこけてしまった。

「これはラブラブですぞー!! 勇者の恋を盛り上げる為、このアドバーク・エルドル、キタキタ恋のラブラブダンスバージョンを」
「いらんわ!」
「あ──っ!!!!」

 不気味なキス待ち顔などを添えた序盤で見るに堪えなかったので、光魔法・キラキラでハゲどたまをムチのように動かして引っぱたいたら動かなくなったが、どうせまたすぐ復活する事だろう。

「ククリが起きるじゃねーか」

 騒がしくしたのに今度は起きなかった事に安心して、勇者のお膝元で安心しきって眠るククリを見おろす。ムニョムニョ言ってるけれど、眠った顔のあどけなさは普段とそう変わりなく、ククリの顔がまともに見られない。この状態じゃ温かい枕としか思われていないだろうけれど、密着状態である事も意識してしまう。

「~~っ、勘弁してくれよ……」

 気持ちよさそうに眠っているものを引きはがすわけにもいかず、せめてもの仕返しは、指先にからんだ三つ編みを軽く弾くに留まる。

 甘酸っぱい空気だが、そばではハゲ腰みのオヤジが頭から血を流して倒れている。おやじのHPが異常に高くなければ、『花の国道中殺人事件~人の恋をからかうな~』が始まってしまうところだ。
2024/08/17(土) 12:10 グルグル小説 PERMALINK COM(0)