コパール王国編の盗賊修行辺りの妄想。あの辺の「ククリを守るため強くなりたい」って直球なニケの心理がすごい好き。考えてみるとこの感覚もネコジタ谷の決意と繋がってるのかなぁ……。コパール編、レイドはピンクボムはいずこ……状態だった気がするけど知らん。なんか私が書くとニケが黒くなってしまうな。原作はほとんど危機感とかなさそう、というか眼中になさそうなんだけど、まあ願望。
盗賊修行は大変だけど良いこともある。ククリを着飾れる事だ。値札付の新しい可愛い服を着られる事をククリも喜んでいるとなれば、ニケとて盗み──もとい修行に力も入る。
今なら遺跡の奥深く、高レベル体の魔物が巣食うダンジョンに眠る宝石だって、彼女のためなら盗んで来れそうだ。
「見て見て勇者様、今日のお洋服! 赤ずきんちゃん風なの!」
着替えたククリがニケのところにやってきて、その場で一回転。赤いエプロンドレスの裾、赤い頭巾の長いケープ状に広がる襟がくるっと翻り、朝の来訪を告げた。友達になったお姫様の影響か、或いはミグミグ族の血が自然とそうさせたか。ドレスの両裾を持ち上げてのお辞儀付き。
もっと派手に持ち上げたらパンツが見えるな、なんてこっそり思ったりしたのは、きっと赤ずきん風だから、オオカミが自分の耳元にそそのかしたのだ。
黒いフード付きのローブの印象が深いククリだが、赤い服も似合う。
「──勇者様?」
甘いキャンディーみたいに光る瞳が、こちらを覗き込んでいた。甘い物は苦手でも、このキャンディーは舐めてみたい。なんて気の迷いも浮かぶ。
「あっ、うん。いいんじゃないか?」
「えへへ、ありがと」
スキップしてご飯の準備に戻る赤い頭巾の背中。そのまま遠い故郷の魔法オババの元へお見舞いにでもいかないか一瞬本気で心配になった。
〇
「いい! 赤ずきん風ピンクボム、良い!」
踊るように食材を手に取り、楽器を鳴らすように包丁を動かす赤い頭巾のククリに悶絶するのは、繁みの中の魔界のプリンス。
「ピンクボムが朝餉の支度をするたび翻る服はオレ様の美しき心の湖に波紋を作り、お前をお姫様のようにさらいたい気持ちを波立たせる……いや、むしろ朝メシに食べちゃいたいみたいな~? ウヘヘ、デヘヘ……」
ポエムが尽きてオヤジのセクハラだった!
「は~い、朝ごはんですよー。ご飯重くしてあるからた~んと食べてくださいね~」
割烹着を着て、何故かオカメみたいに濃い化粧をしたニケが、いかがわしい妄想をしていたレイドに容赦なく巨大な釜を乗せていく。
「ぎゃぁああああ! オカマの格好したラッキースターに巨大釜を乗せられまくるー!? お、重い……」
レイドを倒した!
「ふう……敵に気づかれず背後を取れた。盗賊修行の成果が出ているな……ますます勇者としての貫禄が増してしまうぜ」
倒した(気絶した)レイドは適当に森の奥に捨てて来た。魔物に襲われそうだが、魔界のプリンスとかなんとか言うくらいだから、エンカウントしたらむしろ保護してもらえるだろうし、いいだろう。
「勇者様、なにしてたの?」
「ちょいとオオカミ退治をね」
「えっ、オオカミが出たの? 怖い!」
「大丈夫大丈夫、もう追っ払ったから」
童話で赤ずきんとおばあさんをオオカミの腹の中から救い出したのは、猟師の男だったか。
対する自分は、オババのところからククリをさらって、盗賊の集まりに引っ張り込んだ盗人。ちょっぴりの後ろめたさと、たくさんの愉悦。ククリはネコジタ谷でも、盗賊の自分を肯定して、自分も女盗賊になると言ってくれた。
──ざまあみろ、魔界の王子様。お姫様はとっくに盗賊にさらわれてるんだよ。ギップルが聞いたら悶絶しそうな気持ちは上手く炊けたご飯と一緒に飲み込んで、それきりオオカミの芽を出す事はなかった。