アラハビカ防衛戦直前くらいの話。ここら辺のニケの詳細心理すごい気になる。やっぱアラハビカ防衛戦アニメ三期も原作も何度読んでも飽きねえなぁ……。やっぱアニメ二期版のアラハビカミュージカルもすげぇ気になる。リアタイで見たはずなのだが流石に覚えてない。

「こちらトマ、パンフォス南側異常なし!」
「こちらニケ、北側異常な……」
「北と言えばキタキタ!ワシがおりますぞー!」
「世界の平和を守るため消えてもらう!」

 親父を拳で殴り飛ばし、パンフォスから落として防衛維持。どうせ戻って来るだろう。

 魔王軍が一時撤退してから、パンフォスは平和である。
 異常があるとすれば、

(どこ行っちゃったんだよ)

 いつも後ろをついてくる、あの子がいない事。

 最初は戸惑っていた彼女の存在が、なくなると異常事態になるほど日常になっていた事に、いなくなってから気づくなんて。

 すっかり植物に覆われた塔は、緑豊かな故郷を思い起こさせる。

「……今更気づくなんて、バカだよな、オレって」

 あの子にプレゼントした髪飾りに似た花の花弁をそっと撫でるが、それは静かにニケの手の中で一揺れするだけで、何も答えてはくれなかった。

 〇

 世界がぐるぐる回っています。あの子の描く魔法みたいに。星と星を繋ぐと星座が出来て魔法陣が出来て、世界が上下さかさまになって落っこちてニケは地上に落ちたイカロスになって、大地に還って、やがて芽を出すのです。

「こんにちは、可愛い植物さん! 夢か現実かわからない世界がこんなに綺麗でビックリした?」

 大地に還った者が発芽して世界に帰還するのをお姫様は見逃さず見守ってくれていて、だから彼女はお姫様なのです。お姫様の姿が見たくて芽は目となって、そこから稲穂みたいな毛が生えて人の形を作って、ニケはニケに戻りますが、お姫様が大変カワイイのはわかっているのに、それがどこの誰でどんな顔なのかわからないのです。夢とはそういうものです。

 頭の中では理解しているのに言葉として具現化出来ず、スヤスヤ安眠世界でうなされるのです。

「塔を守る騎士様! いつも見回りありがとう」
「重っ!」

 いつもは絶対装備しない鎧をいつの間にか身に着けて、使った事のない槍まで持っていました。そして気づいたら姫の前でかしずいています。そうしないといけないと心が言うのです。己自身の意志で彼女に寄り添いたいのです。

「でも、ホントはね。お姫様は─き、な人には騎士でも、勇者でもなくて──」

 風の強い日に傍の人の声が聞こえにくいように、姫の声が聴こえません。覚醒が近いのです。夢が覚めてしまいます。会いたかったあの子が傍にいるのに、何も言えないまま──。

 お姫様はブランコに乗って飛んで行ってしまいます。

「待ってくれ、オレ、まだ、何も──」
「急かす──じ様は嫌いよ。ウソ、─き」

 飛んで行ったはずのお姫様が、ベロの出る変な動物のオモチャに乗って戻って来て、ニケの頬をそっと撫でました。

「だから泣かなくていいのよ」
「だって、聴こえないんだ、一番聴きたい言葉ばかりが」

 いつの間にか泣いているニケの耳元に、花が入り込むような声が囁きます。

「すぐに会えるし聴けるわ。だから焦っちゃダメよ──勇者様」

 懐かしい呼び声が聴こえて、頭の奥で、贈られた人を守るリコの花が咲くのがわかりました。

 〇

「──さん! 勇者さん!」
「うわぁあああ!!」
「わぁあああああああああ!!!」

 思いっきり驚きながら起き上がって、必死にこっちを揺さぶっているトマと一緒に叫びの大合唱をしてしまった。

「な、なんだ、もう朝か……」

 寝泊りに使っているトマの店の中で起き上がる。なんだか身体が重い。

「ええ、魔王軍も今のところまだ来る様子がないし……勇者さんも疲れてるからもう少し寝かせておいてあげたかったんですけど、ずいぶんうなされてましたので……格好も何故か鎧になってるし」
「うわ、ホントだ重っ!!」

 急ぎで肩当てやらなんやらを脱ぎ捨てる。

「脱いじゃうんですか? 結構良い装備みたいですけど、それ」
「いいんだよ、今望まれてるのは勇者様でも騎士でもないんだからさ──アレ?」

 どこでそんな事を言われたんだろう。思い出せない。
 
 カブトを脱いだニケの金の髪から、一枚の花びらが落っこちる。拾い上げたそれは、リコの花のカケラ。

(すぐに会いにいくからね。でも、今はまだ──)

 窓から入る風が、どこかで聞いた花の囁き声を届けたような気がした。
2024/09/01(日) 11:38 グルグル小説 PERMALINK COM(0)