発作的に
「なんかもう理屈はいいからニケクク結婚しろ」って思ったから結婚した後の事書いた。2通ってない感じの謎時空。2って意外とあんま前作キャラ再登場してねぇんだよな……。プラナノちゃんとかミウチャちゃんとか、もう一度会いたい。だいぶ元居た大陸から遠くへ行ってた気がするから無理かな。
いうてニケククって結婚してもどっか一生冒険してそうというか、一か所に留まる想像が出来ない。公式番外のグルグル村とか、サイコ妖精の罠とかでナチュラルに同居してたけど。
式を挙げてすぐ、故郷のジミナ村じゃないところに新居を買った。案外空気を読むオババはさておいて、父ちゃん達にククリとの生活をアレコレ口出しされるのは避けたかったからだ。なんだか世界を救った村の英雄をさらって行った気持ちになったけれど、オレだって世界を救った勇者だし、キチンと曖昧な関係にケリをつけた上での事だ。なので村を出る時、オレは堂々と、肩さえ抱いて村の正面入り口から出て行った。
結婚式にはククリとの冒険で出会った人達みんなをプラナノに協力してもらって呼び出したから、小さいジミナ村が大騒ぎのお祭り騒ぎになった。昔とってもエキゾチックで綺麗だなって思ったルンルンお姉さんには「ククリちゃんを幸せにしないと許さないわよ」と念を押されて怖かったし、おかしらはめでたいじゃねえかと良く研がれたナイフをくれた。調理用だったけど。
ミウチャは今回ククリのウエディングドレスをデザインから作成まで引き受けてくれた恩人だし、トマは相変わらず地味だけど、アダムスキーと一緒に発明で会場を盛り上げてくれたし、ククリのウェディングドレスにはしゃぐミグちゃんと一緒に来たザザは少しだけ寂しそうな顔してたし、ギップルはオレが真面目に愛の誓いの言葉を言うのをクサがるし、キタキタおやじはところ構わず踊り続けるし。レイドは未だにククリを口説こうとしてきたから本気の斬り合いになって当のククリに止められたし、なんかもう結婚式というかオールスターというか。
正体客集めの一番の功績者であるプラナノも結婚祝いのプレゼントをくれて、それはチョコの木の苗だった。
「お母様が喜んでたから。ホントはもっと早くプレゼントしたかったけど、お父様達いつも一か所にいないから、邪魔でしょこんなの。やっと渡せるわ」
「なんかゴメン」
オレも多少は丸くなったので、娘に素直に謝ったりなどして。
まあそんなわけで、オレとククリの新居の庭に一番に植えられたのはチョコの木の小さな苗で、ククリが毎日、なんなら一時間ごとに「おおきくなぁれ、おおきくなぁれ♪」と歌ったり話しかけたりする願いを聞き届けるように、一週間くらいで大きな樹になってしまった。
昔プラナノに出してもらった木より大きなチョコの木は、いっぱい甘い実をつけて、お茶の時間、ククリを幸福に誘って、オレでもなかなか狙ってはさせられない笑顔を簡単に引き出す。嬉しいような、少し妬けるような気持ちで、ククリが喜んでるからまぁいいか、と思っていたのだけれど。
どこからかチョコの木の噂を聴きつけた近所のガキ共が、ちょいちょい家の庭に忍び込み、その実を取っては食べて行ってしまうのだ。全く、勇者の家に堂々とドロボーとは、将来有望な奴らだ。オレ? オレは勇者だから人の家のタンス開けてもいいんだよ。
「プラナノも子どもが天敵の木とは言ってたけどなー」
「いいのよ、ニケくん。勇者様は心が広くなきゃ、ね?」
今日もやられて実がスッカラカンのチョコの木を複雑に眺めるオレの横のククリが、ずいぶん懐かしい呼び名でオレを呼んで、ドキリとしてしまう。オレはずっと大切な女の子にニケと呼ばれたかったけれど、やっぱり慣れた馴染みのある呼び方の魅力は、未だ冷めやらないようだ。
ククリが泣くなら対策を考えるところだが、当のククリがそう言うならばしょうがない、許してやろう。どの道チョコの木は、大切に世話をするククリの気持ちを養分にするがごとく、毎日甘い新鮮な実をつけるのだ。ケチケチしたってしょうがない。
時々、お茶の時間。盛況すぎて一個もチョコが残っていないなんて事もあったりして。
そんな時は、ククリの手を引いて、店までチョコを買いに行く。
「チョコレートを手に入れる大冒険だね!」
ただの近所の散歩も、ククリにかかればこうである。だからオレもそんな気になって、
「そうだな」
なんて笑ってしまう。
馴染みになった道具屋の親父に、繋がれた手を見られて、「今日も勇者ご夫婦は仲良しですね」なんて言われても、ククリが照れずに返せるようになるほど、庭のチョコが売り切れの日も日常になって。
オレは内心で、チョコを食べ尽くす近所のガキ達に感謝してしまうのだった。