原作とか2とかアニメとか何度も見返すと、あのギャグ群に(初見ほどは)惑わされにくくなって、そこでやっとニケが本当にスパダリでククリの為にだけ常に動いてるような理想の勇者で白馬の王子だって事に気づくんだけど、でもニケって、普段あまりそうは思わないとこあるよね。女読者でコイツに脳やられちゃった人は結構いると思うんだけど(自己紹介)、本来の読者層男性が見てても、ニケってそこまでかゆいとかイヤミったらしい美形とかには多分あまり思わないよね。

どうしてかなーって思ったけど、

①とにかくニケのボケが笑える
②キメ台詞やカッコよさをほぼ毎回ギップルやその他ギャグに潰される(コレはギャグが落ち着いてきた2でも同じ)
③ククリにとって王子で勇者で常にそういう風には動くが、ククリの思い通りの言葉をくれるほど都合が良いわけではない、或いは大人な男ではない

ってのが大きなポイントかなーって。他にもあると思うけど、大きなポイントはこの三つかなって。①、②は読めば一発でわかる事だから流しておくとして、③が結構たどり着きにくい。

女性向けで理想体の100点の王子様が「顔もよくていつもヒロインの事助けてくれてカッコよくて、言って欲しい時甘い言葉を囁いてくれる人」だとすると、ニケは90点くらいはいけるというか、そのまんま少女漫画や乙女ゲームに出たとしてもいけるだろう。って感じで完璧に近いが、やっぱり100点は取れないし、取れるわけがないんだよね。年相応の少年だから。

ククリちゃんというか恋する乙女というのはワガママだから、これだけ態度で愛されていても、もっともっと安心させてくれる言葉が本心では欲しいと思うんだが、まあ運命の王子であろうとそこまで上手くいかんわな。って点が、絶妙に男子読者を引かせず、女子読者をいい意味でヤキモキさせる要素なんだと思う。多分。

というか原作初期なんかはニケって綺麗なお姉さん見ると「エキゾチック美人~」とか「グラマー美人~」とかサクッと褒めて来るけど、多分ククリにはそういうサラッとナンパ台詞での褒めが出ないんだよね。ギャグパートでもやらない。そこはブラッシュアップされたアニメでもそう。視聴者にはわかりやすく、ククリが綺麗だと可愛いと思って頬を染めたりする描写がOPなどでも表現されているが、ニケがナンパ男モードの時の自分をククリにぶつける事はない。アニオリでボーイミーツガール要素が強調されわかりやすくなってても、ニケと視聴者の間だけで終わる心理として表現される事がほとんどだったのは、やっぱりとても原作を良く分かった人達が作ってるんだろうね。仮になんとなくの感覚だとしても。原作より何割り増しかカッコよくなってても、「理想の王子様」とか、「英雄勇者像」とかじゃなく、ちゃんと「原作にもあるニケのカッコよさ」として描く事に成功してる。

というか多分、ニケはククリを本当に可愛い、綺麗って思った時は何も言えなくなっちゃうんだよね。ネコジタ谷で、ミグミグ族の衣装を着たククリがあまりに可愛くて、黙り込んじゃってオルゴール落っことしちゃったみたいに。綺麗なお姉さんを通りすがりに綺麗~って言うのと違って、本気だから。

今思うと、きりなしの塔の精霊に、ミグミグ族の帽子服としてあげちゃった時、結構オーバーなリアクションで驚いてたのも、ククリの家族に関わる大切なものだから、ってだけじゃなくて自分が好きな子を本当に綺麗だって思った格好だからじゃないかなって。実際きりなしの塔攻略後、ククリがいつもの服に戻った時も残念そうにしてんだよね。パンチラ度ダウン!とかギャグっぽくだけど。

パンチラ度が落ちる!もある意味正直な男の子の気持ちなんだと思うけど、多分これすらホントのホントのニケの心情を表現してない。「本当に綺麗で似合ってたから、着替えちゃったのも、帽子を精霊にあげちゃったのも、残念だなあ」って事は読者すらニケの挙動で感じ取るしかない。俯瞰視点で彼らを見れる読者すら、かなり難易度高いと思うけど……。

ネコジタ谷でククリがミグミグ族の衣装を着て踊る話は、ククリの一族に関わる、ストーリーの重要な要素としてギャグ介入が控えめ(当社比)で丁寧に描かれるとても重要な回なんだけど、ここはニケにとってもかなり重要な回でもある。勇者としての旅を面倒くさがってたニケが、「ミグミグ族の衣装を着た綺麗な可愛い女の子が、外の世界で踊れないのは悲しいから、この子が外の世界で安全に踊れるためだけにでもギリを倒してもいいな」って決意する回だから。

ここら辺、読者として読んでるとすごく泣かせる決意でいい話ではあるんだけど、見逃しやすいポイントとして、「この好意と決意はニケ(と読者)の中だけで収められてしまって、肝心のククリには伝わっていない」と言う点があると思う。

恥ずかしくて君が好きだよ、とまでは言えなくても、ここのネコジタ谷で「ククリのためなら魔王ギリくらい倒してもいいと思った決意」と、「ミグミグ族の服を着たククリを本当に綺麗だと思って見とれてしまった事」を話せていたら、アラハビカでククリちゃんはデビルククリにならずに済んだかもしれない。もちろん年相応の少年に、そこまで求めるのは酷だし意地悪だというのは承知の上で。だってニケって普段でも13歳とは思えないくらいククリに優しくて、ククリが失敗したって絶対怒ったりしなくて、そしてそれは義務などではなく本当にそうしたくてしているのに、それでもダメだなんて言われたらそりゃ無理だよ。それは承知の上で、多分そうなんだよね。

ニケのそういう年相応の欠点は、読者からすると女子からも男子からもここまでわざわざ言語化せずとも愛嬌として伝わっていると思われる要素で、だからニケは挙動が完全に女性向け王子様であるにもかかわらず、女子でも男子でも素敵、面白いやつって認識になる、かなり絶妙な配分のキャラクターなんだね。

がじぇっとのシュウくん、ウサギテレビのイービィがどうしてもニケを越えられなかった点は、作風がギャグ重視ではなく、元からの読者が戸惑ったという点だけでなく、彼らが普通に大切な女の子を綺麗、好きだよと言えてしまう思えてしまう素直な少年だったからだと思う。女子はそれはそれで素敵だと思うかもしれないが、安定感がありすぎるからニケほど応援したくなったり翻弄されることはないだろうし、男子はここまで好きな女に素直な男に対して、感情移入する事はちょっと難しいんじゃないんだろうか?

シュウくんとイービィの態度、恋愛のパートナーとしてこれほど正解の行動もないと思うんだけど、やっぱりそれを素直に素敵!って言えるほど素直な読者ってあんま数いないと思う。大半の読者はニケなんだよ。(性別を問わず)。衛藤先生の澄んだ部分って多分、ちょっと澄み過ぎててホントにそのままだと多分感情移入が難しいんだよ。作者にとっては本当にそうだとしても。だってそういう衛藤センスが好きな私でも、それを認めるのってやっぱりちょっと今でも恥ずかしい部分あるもん。恋とかじゃなく、園芸が好きだとか、ぬいぐるみが好きだとかの、趣味や嗜好に対する好きとかでも、それを素直に好きと言うって、本気であればあるほど難しくなっていくものなんだと思うしな。

なんなら「衛藤先生のホントに根っこの素」は、ニケよりはシュウくんやイービィなんじゃないかな、とすら思うんだけど、そのあまりに純で素直な部分は、彼らのお姫様には刺さったけど、ちょっと読者を悶絶させたり面白がらせるには真面目で安定感があり過ぎたんだと思う。ククリちゃんにはもちろん、読者にすら本当の本当に思っている事を直球では教えないほどの究極の年相応のウブ、そこがニケの人気の秘訣なんだろう。無印後半~2にかけてニケにも当然成長は見えるんだが、ここのウブに関しては多分あまり変わってないと思う。「女の子にはやさしくしてあげなきゃ キミは単に接し方がわからないのだよ」、アラハビカのデリダのニケへのこの言葉は、かなりニケの根底を突いた言葉なんだろうね。ギャグのアホさや勇者としてのカッコよさを全部取っちゃったニケは、わかりやすい酷い意地悪こそしないかもしれないけど、好きな子に好きとすら言えない年相応の少年でしかない。

ガンガンオンラインのグルグル2コメント欄で「ニケの心理描写に潜っていく時、その心理が本当に綺麗」みたいなコメント見たと思うんだけど、コレ書きこんだ人はかなりニケの事よくわかってるんじゃないかな……。澄んだ心を持つ、読者にすら心理をなかなか見せてくれない純でウブな少年がニケの本当の素なんだよ、多分。

ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっとニケとククリの「すげぇ仲が良いのに、なんか噛み合わないな……」と感じていた部分は、多分ここら辺だろうな……。しかし本当ニケって萌えの塊みたいな男だな……もう存在と挙動の全てが好き過ぎるわ……。意地悪な男ってわけじゃないからすげぇわかりにくいし、例によって20年くらい言語化するのに時間がかかったぞ……。他にも「実はわかりやすいククリよりニケのがずっとククリに惚れこんでるんじゃないか?」的コメントもあったと思うんだが、この書きこみの人もかなり核心そのものに踏み込んでると思う。ちゃんと私よりも先に、ニケの核心に触れた人はいるんだな……。まあちゃんとそのまま描いてはあるんだ、あるんだが……何故かすごくわかりにくいんだな。

そして本当に衛藤センスってなにも真似出来ねえわ、猿真似すら無理。

あともう一つだけいいか?

いくら衛藤先生がミステリー好きっつったって、恋愛ヒーローの心理まで解答なしのミステリー仕立てにする事ねえんじゃねえですかね!!!!!!!!!!!!

これ……本当に衛藤先生の担当編集さんは全部わかってて20年担当してるの……?(n回目)。わかってるんだろうな……ゆっくり読むとまた違った面白さがある、うん、ある……。
2024/07/04(木) 23:22 作品感想 PERMALINK COM(0)