ニケの心理が解答のないミステリー、藪の中状態ってのがわかりやすい例として、明確に解答がある無印花の国編すら、解答の部分をただ読むだけだと達成率90%止まりになるってのがある。

おさらいすると、花の国編は、ククリちゃんが食べたいチョコの材料を取りに花の国へ行って、そこで色々ありすぎて読者もククリちゃんも忘れかけていたチョコレートの用件を、ニケがちゃんと覚えていてくれた。そのニケの優しさこそが、ククリちゃんにとって本当に甘いもの。というお話。

別に普通に読めば理解出来るじゃん、って感じで実際出来るんだが、色々ありすぎて多分ニケが花の国来る前に「甘い物嫌い」って言ってたことも多分忘れてる人も多いだろう。でもそこはラストシーンで特に回収されないんだよね。

回収はされないんだけど、他の記事でも言ったように、ニケは甘い物苦手だから、そんな散々苦労してチョコを手に入れたところで、本人になんの益もないんだよ。だから花の国ラストのチョコの木のくだりは、本当にただククリちゃんが好きで喜ばせたいだけのニケの献身的な愛。ククリちゃんのモノローグで終わるくだりで、その甘い物嫌いには触れていないから、ククリちゃんはニケの優しさにちゃんと気づいているようで、もっと奥深いところにまではおそらく行けてない。

ニケもニケで「甘い物嫌いなのに作ってもらったんだから感謝しろ」なんて事は絶対言わない。作者と結託してそんな押し付けをする発想がない。読者も当時掲載誌だけで追ってたら、「ニケの甘い物嫌い」は忘れてる可能性があるし、単行本派でもじっくり読んでないとうっかり流してしまう。

だから解答編のある花の国すら、ニケの心理は藪の中なんだよね……。

やっぱり担当さんの「じっくり読むと、また違う面白さ」ってのは「グルグルの設定自体は結構切ないものが多い」ってのと「ニケの細かい心理が良く読むとわかる」って事だと思うんだよな……。

ちなみにニケククは、2でも花の国と同じような事してる。他のクエストやろうとしてたんだけど、ククリちゃんが甘いもの食べたいっていうからじゃあ別に俺もすごく行きたいわけじゃないからいいやーって甘い物探しのクエストに切り替えちゃう。で、そこでもニケは「甘い物はちょっと」ってトマと会話するだけで終わっちゃうし、今回もククリちゃんは勇者様が甘やかしてくれたことはちゃんとわかっているが、「ニケは甘い物が嫌い」、「ククリちゃんがしたいから甘い物を食べるクエストに行った」ってのを繋げられてない。

だから花の国編でも、2のお菓子職人の話でも、一見分かり合っているカップルのようで、根底の根底のところだと分かり合えてないんだよね……。

なんかもう……衛藤先生のミステリー作家としての側面すごいよね……。その上手さがファンタジーミステリーとしてわかりやすく提示されるアラハビカとか2の「ククリの古い友達」では神髄に至らない、その上「こんなことやったら読者にもニケにもククリにも益がない」ような事をずっとやり続けてるっていう。

その上で何が一番衛藤節で照れ屋と押し付けなさがイカレてるって理由として、同じ解答がないミステリーである藪の中やスカイ・クロラは、解答に行きついたご褒美は「事件の真相(所説あるけど)」とか、「実は結構ショッキングなシナリオ構造」ってすごくわかりやすいと思うんだけど、グルグルのニケミステリーは解いたところで「ニケと作者の、伝わらなくてもいいと思っていそうな愛」しか出て来ないんだよ。私の好みは捨てて客観的に言ってしまえば、藪の中やスカイクロラに比べて謎解きの報酬としてはしょぼいんだよね。っていうかグルグルを恋愛物として見た時、こんな事やるメリットって一切ないんだよね。すれ違いで引き延ばすにしたって、モノローグとかで読者には説明した方が絶対良いに決まってる。まあそれでもニケと作者はやるんだけどね。

こんな事代表作で(途中別の作品や外伝を挟んで空白があったとはいえ)30年もやってる作家、ちょっと思いつかない……。本当に衛藤ヒロユキはヤバイ作家だと思う。ヤバさが多分私の同類しかわかってもらえないやつだけど……。押しつけがましさがなさ過ぎて、ニケも作者も狂気の域なんだよ……。

これ、本っっっ当に伝わる人ごくわずかだと思うのに、それを担当編集さんは指摘しないまま20年やってきたの……???1より更にわかりにくい部分がある2とか、止めようと思えば止められたよね……? 20年もの付き合いだもん、その辺のわかりにくさについて衛藤先生と多少話し合った事もあったんだろうし、多分素人が考える疑問なんて今更よね……。

やっぱグルグルって無意識に追い求め続けていたっぽいだけあって、本当に私にとって創作の目標として唯一無二過ぎる……。狂四郎2030が題材的に、パッと見で美しい夫婦愛と人間賛歌(と人間の仕方なさ)の切ない話ってのがわかりにくいのはしょうがないんだけど、グルグルのアホみたいな作風と甘いメルヘンで、狂四郎と同じ濃度の狂気的な愛の要素(それも超ネアカのプラス方向で)があるっての、ホントにイカレてるわ。

狂四郎の狂気部分の濃度に、光の方向で並ぶなよ。藪の中とスカイクロラのミステリーに、少年の少女への献身的な愛で並ぶなよ。狂四郎の恐ろしい要素より、今はグルグルと衛藤ヒロユキの方が怖いわ。

なんなら花の国編のラストも、「それはね……」で終わらずに「それはね、勇者様!」って言っちゃった方が読んだら100%伝わるものにはなると思うんだ。流石にラストシーンはわかりやすいけど、言葉にしないとわからない層がいるって話を鑑みると、アレですら多分わかりにくい。「あまいものなーんだ?」「それはね……」で終わる流れ自体は、私も大好きなんだけどさ……。

こんな事30年もやってたら、そら進展するわけないよなあ、ニケクク……。一応言っておくと、ニケによこしまな気持ちがないわけじゃないんだよね、初期なんかはククリをスケベに見てる事がわかりやすいし、2はかなり落ち着いたけど、相変わらずククリの露出度高い服見たいくらいは思ってるし、ククリの裸踊りで人をあぶりだせる魅力があるとは思っている。

呪われた竜として、リンゴの形の月を食べさせてもらった時の事をうっすら覚えているニケも、「欲しかったものに手が届いたような」って言ってるから、ホントはククリの事多分欲しいんだよね。健全な漫画だから、エロい表現はされないけど、「天使にリンゴを貰った」事を「欲しかったものに手が届いた」って言ってるってのは、暗にククリちゃんを食べちゃいたいような感覚なんじゃないかっていうか……。とにかく、多分自分のものにしたい気持ちがないわけではないんだよね。作者と結託した究極のウブかつ、押しつけがましさが実はククリには一切ないから、こうして無印超えて19巻、ここまでほとんど進展がないけれど……。

なんかさ、押しつけがましいのもいけないとはいえ、ここまで押しつけがましくない愛もやっぱ罪だよね……ニケとククリに関してはもう既に読者も見届ける形でたくさんの思い出と深い絆があって、既にククリちゃんはニケになら何されてもいいって段階に来てると思うのにさ……。そらHするような漫画じゃないとはいえ、言葉で好きって言うとか、ほっぺにキスくらいもう少し日常的にやるとか、なんかしなさいよ……。

アニメのアラハビカ編ラスト、ニケがククリちゃんにチューする時、アニメだと更にヘタレ度が上がってて、一回チューするために顔近づけて、結局行けずに一回引くんだよね……wwここ原作と演出変えてるのに、原作以上にニケの本質表してると思う……。やっぱアニメの解像度、描き方こそ違うけどちょいちょい原作越えてるわ……。

もう一個言うと、ニケは別に図々しさがないわけじゃない。シュギ村を救った後、「恩人なんだからタダで物寄越せや」とか村の店脅すような事は普通にやってる。やってるけど、「ククリちゃんには感謝しろムーヴを絶対やらん」というだけ。大切な女の子だから。

はあ……この焦れっ焦れ恋愛が少女コミックでやっていたなら、「天は赤い河のほとり」のメインカップルみたく、結ばれた瞬間我慢してたのが大爆発して一晩中ヤリまくるとかいう激シコ純愛スケベが見れたのに……ガンガンだから、どこまでも澄んだ衛藤ヒロユキだからニケだから畜生!!!!!でもそんな衛藤先生とニケが好き!!!!!!!

それはそれとして、天は赤い河のほとりまた読みたくなって来ちゃったなぁ……アレの王子も、めっちゃくちゃヒロインの事好きなのに全然手出さない系男だったっけな……。

少女漫画すら姫ちゃんのリボンの大地だの、天は赤い河のほとりのカイル王子だのを多感な時期に摂取しちまってたの、やっぱある種の不幸だわ……。

このままニケの照れ屋と一切押し付けない献身的な愛について考えてたら発狂しそうだから、もう少し普通に付き合ってるやつとかスケベする純愛見ないと心が死んじゃうかも……。やっぱ魔王学校謎セールのうちにKindle全巻買っちまうか……こっちはまだ「好き!」って言うし通じ合うからニケククよりマシ……こっちもこっちで何故か告白から恋人に発展しないけど。

魔王学校に俺だけ勇者!?と魔法陣グルグルはカップルの空気が良く似てると思うんだけど、決定的な違いは「とにかくわかりやすく全部説明する夏緑先生」と「わざとわかりにくいものを描いてる衛藤先生」という作家性の違いだろうな……。後は「恋を描く時一切照れない恋愛作家の女性」か、「死ぬほど照れて、作中で手間暇かけてわけわかんないことする小学生ムーヴの男性」か。

今時言うな、って言われるけど、やっぱ時に男女の極端な性質の違いって、出るよなぁ……。だって似てるのにやっぱ違うもん、魔王学校とグルグル……。
2024/07/06(土) 04:33 作品感想 PERMALINK COM(0)